メインビジュアルを手掛けたペインターLY。モンスターとランドスケープのモノクローム物語。

ART

モノクロの世界に佇む無表情のモンスター。この作品を描くのは、ペインターのLY(リイ)さん。彼女の作品は、黒とグレーと白のみで描写され、他の色彩は一切使われていない。一見すると無機質な世界だが、そこに写し出されたモンスターたちは、憂いを帯びたように見える時もあれば、嬉々としたような動きを示すこともある。そんな彼女の象徴といえるモンスターやランドスケープ(風景)、そしてモノクロームの作風となったルーツを探るため、LYさん自身がプロデュースするコーヒースタンド、IN THE PAINTINGにお邪魔して話を伺った。

自分にしか見えないものを描いて
誰にも文句を言わせない

モノトーンの作品を描き続けるLYさんを訪ね、東神田にあるコーヒースタンドIN THE PAINTINGへ。そこで待っていたのは、作品の印象とは裏腹に明るく朗らかな彼女。早速話を聞いてみると、現在に繋がる作風は小学生1年生の頃に通っていたアートスクールに遡るそうだ。
「図形を描いて、そこにクレヨンで色を塗り分けるということを延々とやらされていて、ここを黄色、ここを青って考えるのがめんどくさくなっちゃって。それで、黒だけを使うようになったのが原点かも」

こうして色を使わなくなった幼少期のLYさん。さらには好きなものしか描かなくなったそうだが、11歳の頃には今のスタイルに結びつく考えを持つようになった。
「一緒に通っていた同い年の子が、デッサンを写真みたいに描いていてすごく上手だったんですよ。私、その子に対抗意識を持っていたから、目に見えるものを忠実に描いていたら勝てないって思っちゃいました。それなら、本を読んで思い描いた空想の世界とかモンスターとか、自分にしか描けないものを描いちゃえば誰もいちゃもんをつけられないと思ったんです」

毎年コンセプトを掲げ
誰も見たことない景色を模索する

こうして、小学5年生ながらに今とほぼ変わらないテイストの作品を描くようになった。時は流れ、彼女はペインターとしての頭角を現し、そのモンスターはアイコンとして認知されるようになり、さまざまな場所の壁画やプロダクトに登場する。
「ずっと、名前もない黒くてモジャモジャしたモンスターをたくさん描いていました。具体的なモンスターとして最初に誕生したのは男性器をモチーフにした〈DIK〉。そして8年くらい前から顔がない〈HATE〉が、そして比較的最近〈LUV〉が生まれました」

それらのモンスターはスケートボードを片手に街を徘徊し、うなだれ、何かを見つめている。まるで何かを求めてどこかを彷徨っているようだ。その理由は、毎年LYさんが1年を通して作る作品にコンセプトを掲げていることに関係する。
「毎年のコンセプトになるのは、その時の心情です。2016年は『FAR FROM HOME』。ずっと描きたいものを描き続けていたら、こんなところまで来ちゃったって想いが強かった時期だったので、“家から遠くまで来ちゃった”という感じのテーマ。〈LUV〉が街をフラフラしている作品ばっかり作っていました。それで、自分が昔から描きたかったものは固まってきたから、次はどこに行こうかって考えるようになって、2017年は『SOMEWHERE』にテーマが決まり、〈LUV〉をストリートやランドスケープに彷徨わせました。そうしたら結局、LUVは違う街にたどり着いたのです。そして、2018年は『OUTSIDE,INSIDE』というテーマの元、心情の内側と外側、家の中とストリートを描きました」


毎年のコンセプトは繋がり、ストーリーを創る。『OUTSIDE,INSIDE』から続く今年のコンセプトは『LOST SOMEWHERE IN THE STREET』。昨年はストリートの内側まで描いていたので、今年は目に見えないストリートの気分を表現してみようと思っているそうだ。
「心情が毎年のコンセプトに反映されるので、掲げるテーマは自分に足りないもの。自分はその風景を見えているけど、作品を観ている人にはそれが伝わっていないかもしれない。昔から、頭に思い浮かんでいるのになんで描けないんだろうってジレンマがありました。ちゃんと自分が想像して思い描いているものをちゃんと表現できるようになりたいって、ずっと考えています。だから、絵を描くことによって自分に足りないものを補っているという感覚ですね」

繊細なグレーで表現した
YES GOOD MARKETのメインビジュアル

今年のYES GOOD MARKETのメインビジュアルを手掛けた彼女。そこには、たくさんの〈LUV〉が街をブラつく姿があった。
「“森からストリートへ”というテーマだけがあって、あとは自由に描いていいよと湯本さんに言ってもらいました。いつも詳細の全体の構図を決めず、描きたい対象をひとつだけ決めてから描いていきます。今回は、YES GOOD MARKETの建物が中心。そして頭の中で無数に空想している風景から、テーマとリンクしたもの引っ張り出して構築していきます。あとは、水色に見える人がいるくらい青っぽいグレーを使ってみたかったので、それを使いつつ、合計30種類くらいのグレーで彩っています」

トーンが違うグレーを駆使した絶妙な仕上がりは、彼女が長年の間モノトーンのスタイルを貫いてきた功績と言えよう。最後にLYさんがYES GOOD MARKETについて、このように語ってくれた。
「今まで開催された写真や記事を見て、すごく楽しそうで気になっていましたが、実は、まだYES GOOD MARKETに参加したことがないんです。しかも、静岡には私が描いた壁画もありません。丸いキャンバスを数点出展する予定なので、いろんな人と出会えることを楽しみにしています」

COFFEE STAND IN THE PAINTING
住所:東京都千代田区東神田1-14-2
営業時間:11:00〜18:00
定休日:月・日・祝

PHOTO:RYO KUZUMA TEXT:SHOGO KOMATSU