カルチャーと蜜月関係を築く、NAIJEL GRAPHのブレない姿勢。

ART

ブランドとのコラボレーションから雑誌やレコードのカバーまで、さまざまな媒体から引く手あまたのグラフィックアーティストNAIJEL GRAPHさん。最近は絵本を出版したり、海外で展覧会を開催したりと精力的な活動に注目が集まっている。彼が描く、柔らかくて抜け感のあるイラストは、アメリカンカルチャーがモチーフとなったものが数多く見受けられるが、一番彼に影響を与えたものとは一体なんなのだろうか? 彼のバックボーンを紐解き、その魅力に迫る。

自分が描きたいものを追求し続けて
活動当初から変わらない表現スタイル

今となっては自身の作品制作以外に、多方面へのデザイン提供やコラボレーションを果たし、BEASTIE BOYSのオフィシャルグッズを手掛けるほど活躍しているが、グラフィックアーティストとして駆け出す以前は紆余曲折があったようだ。
「芸大を目指して三浪しましたけど、結局桑沢デザイン研究所という専門学校に入学して、中退しました。でも、中退したことをきっかけにちゃんと決心できて、絵で勝負したいと考えるようになりました」

こうしてグラフィックアーティストとしての一歩を踏み出したNAIJEL GRAPHさん。その頃の作品を見せてもらうと、現在とほぼ作風が変わらないことが判明した。
「この頃から今と変わらず落書きみたいな感じですよ。これは、まだ日本ではZINEとも呼ばれていない2000年頃に作った本で、メキシコに行った時の絵を中心に写真や手書きのメッセージを加えて一冊にまとめました。その頃から、自分のバックボーンにある描きたいものを描き続けていた結果、今となってはクライアントさんから、逆にそれを描いてくれって頼まれるようになりました」

元ネタに自分らしい個性を反映する
HIPHOPのサンプリング文化

そのバックボーンとは彼の作品を知るなら明白なことだろうが、出会いのきっかけを高校生まで時間を巻き戻して教えてくれた。
「当時HIPHOPが流行っていて、友達がクラブでパーティをやっていたからDJの友達もたくさんいました。僕はSKAとかを聴いていたんですけど、気づいたらHIPHOPが好きになっていて。そこからサンプリングの元ネタとなるJAZZやSOUL、ROCKなどを聴くようになりました。例えば、De La Soulの『Magic Number』がめちゃくちゃカッコいいと思って聴いていたら、それはBob Doroughの『Three Is A Magic Number』が原曲だと知って、聴いてみたらそっちもめちゃくちゃカッコいい。HIPHOPのカッコいい曲に元ネタとなる曲があって、それにはHIPHOPとは違う良さがある。それで、HIPHOPにどハマりしました」


多感な時期に触れたHIPHOP最大の発明とも言えるサンプリング・カルチャー。すっかりと魅了され、それが現在も自身に多大な影響を与えている。
「僕の作品はサンプリングという手法の作品が多いです。音楽ではなく絵でサンプリングしているということ。モチーフにした元ネタの良さがあるけど、それを僕なりに個性で表現している感覚。HIPHOPっていうよりサンプリングという文化から受けた影響が大きいです」

自分が感銘を受けたものは、なんでも作品に昇華する。その元ネタは、これまでにNAIJEL GRAPHさんが肌で感じたカルチャーだ。
「映画をテーマにすることもありますが、観るジャンルにこだわりがありません。好きな映画はたくさんあるけど、例えば『STAR WARS』で、“恐怖は怒りへと導き、怒りは憎しみへと導く。そして憎しみは苦しみへと導く”ってヨーダが言っていて。そういう自分がカッコいいと思ったシーンをサンプリングしたいって思っちゃいます。その映画を知らなかったとすれば、僕の作品を楽しんでもらった上で映画を観れば、2回楽しめますし。もちろん、その逆も然り。“このシーンいいよね”って僕の絵を味わいつつ映画のワンシーンを思い出せますので」

お互いのやりたいことを具現化できる
SEE SEEとのコラボレーションワーク

NAIJEL GRAPHさんはSEE SEEと何度もコラボレーションを果たしている。5年ほど前に出会い、互いが琴線に触れてクロスオーバーを重ねる盟友のような関係だ。

「僕は絵ばっかり描いていたので、立体に挑戦したいってずっと考えていました。SEE SEEのプロダクトは、僕のやりたい立体ものとドンピシャで、湯本さんも一緒にやりたいって言ってくれました。それで、こういうものを作れませんか? って要望を出してみたら、湯本さんも逆にこういうものを描けますか? ってやりとりがあって。今もそのセッションを重ねていて、たくさんの企画がスタンバイしています。僕には思いつかないことを提案してくれるので、新しい発見もあっておもしろいです」


SEE SEEと良好な関係を築くNAIJEL GRAPHさんは、毎回YES GOOD MARKETに参加。昨年の12月23日に開催されたYES GOOD MARKETは、NAIJEL GRAPHさんが手掛けた絵本『なんでもたしざん』に収録されたサンタクロースの絵をメインビジュアルとした。
「僕の絵に興味を持ってくれた人と顔を合わせられてリアルな声を聞けるからおもしろいと思っています。大阪から新幹線で来てくれたっていう人もいて、嬉しいですし、やっていて良かったと思います。でも、結局は自分が楽しみたいからYES GOOD MARKETに参加するのが一番の理由ですね」

PHOTO:DAIKI KATSUMATA TEXT:SHOGO KOMATSU