多方面で活動を展開する
ジェリー鵜飼のアレやコレ。

ART

イラストレーターやアートディレクターとしての活躍はもちろんのこと、雑誌GO OUTでの連載“SOTOKEN”を10年以上続けたり、“ULTRA HEAVY”のユニットでアパレルなどを展開したりとさまざまな動きに注目が集まるジェリー鵜飼さん。それだけに留まらず小説の執筆にも挑戦していて、昨年は『記憶の地図』と『ジェリー・マルケスと一緒に観たあの景色のことは忘れない』の2作品を出版し、今年はvisvimが発行する雑誌Subsequenceで短編物語『Zen Hiker』を発表。そんな目を見張るほど積極的な活動をする彼にさまざまなことをお話いただいた。

楽しみながら取り組む
アートに対する姿勢

大学卒業後からイラストレーターとしての活動を開始し、20年以上のキャリアを持つジェリー鵜飼さん。現在に至るまで、たくさんの仕事をとおしてスタイルを築いてきたため影響を受けたモノを具体的に挙げられないほどたくさんあると言うが、制作に対する姿勢を学んだ出来事は明確にあるそうだ。
「1997年くらいに、画家の五木田智央さんとコンビを組んで仕事をしていたんですよ。彼のモノ作りに対する情熱を毎日隣で見ていたら、『ここまで真剣にやらなきゃいけないな』って感じました。その後は、アーティストの井口弘史くんと2人で仕事をしていたこともあります。井口くんもモノ作りに対するスタンスがストイックで、その姿勢に影響を受けました。僕はどちらかというとゆるい考え方でしたが、井口くんは『鵜飼くん、ここで止めちゃダメだよ』って声を掛けてくれるんですよ。それから自分の制作に対する考え方が変わりました」。

こうして多彩な仕事をこなしつつ作品を発表し、第一線で活躍し続けているのはご存知のとおり。今ではシーンに対してこんなことも考えているそうだ。
「世の中にはいい作品を作っている人はたくさんいます。ずっと思っているのが、歳を重ねて上手になった人より、上手ではないけれど若くて情熱を持っている人の作品のほうがおもしろいということ。これからも自分の作品を作りながら、若い世代に作品で食べていけるということを教えていきたいです。必要と不要を見極めつつ、サラリーマンではない僕たちが楽しんで生きていかなきゃって思います」。

山登りなどのアウトドアは
半分が遊びで、半分が仕事

彼の多岐にわたる活動に共通するのが“アウトドア”というキーワード。日常的に山登りを楽しんでいるそうだが、その魅力とは?
「歩くのが好きだから、ひたすら歩いているのが楽しいというのが山登りをする理由のひとつ。あと不便さが心地いい。便利な暮らしはいいけれど、ある程度の不便を知っておいたほうがいざという時に役立つし、電気がなくても最低限の暮らしができるということを知っておくことで、要否を判断できて自分の中で気持ちいいラインが分かるようになります」。

「昨年の12月、奥多摩駅から長野県の川上村まで歩いて行きました。普通だったら3泊4日以上かける工程を1泊2日というか、夜も寝ずに歩けばどこまで行けるのか自分で実験をしてみたくて。山って自問自答の旅で、ひとりで歩いていると考え事ばかり。自然の良さは感じているけれど、みんなが思うほど景色は楽しんでいないんですよね。ずっと頭の中でひとつのことをループして考えていているのが楽しいです。ひとつのことをずっと考えても、その答えが見えないまま下山することのほうが多くて、人間はひとりじゃ答えを見つけられないものだとよく分かります」。

「いろいろと考えながら山登りをした結果、世の中を良くしたいという気持ちで下山してきますが、街に出てくるとゴミを平気で道端に捨てる光景を見てがっかりしちゃいます。その時のモヤモヤした気持ちを作品にぶつけるということはないけれど、心の中に引っかかりが残っていて、それが小説を書く時に少しずつ活かされていると思います。文章なので絵よりもダイレクトに表現ができますが、あまり大々的にメッセージを提示するのではなく、小出ししていく感覚。固くなりすぎず、楽しく誰もが気づけるような形を模索しているところです」。

自分らしく外遊びを楽しむ
ULTRA HEAVYの提案

スタイリストの石川顕さんとアーティストの神山隆二さんの3人で展開しているULTRA HEAVYの活動も注目されているが、それを結成した経緯を教えてくれた。
「2009年くらいから、装備を軽量化するウルトラライトという登山スタイルが登場しました。それには僕も大賛成。僕もウルトラライト・ハイカーなので、どこまで荷物を軽くできるか常に考えています。でも、それを突き詰めていくとストイックになりすぎちゃって、自分らしさがなくなっちゃうと思っていました。そんなタイミングで、スタイリストの石川顕さんとバンザイペイントの立沢トオルさんが、“ULTRA HEAVY”とデザインしたスウェットを作っていたんですよ。僕たちが一生懸命追求しているウルトラライトを皮肉ったような言葉だけれど、すごくカッコ良く感じて」。

「その少し後に、石川さんから『ULTRA HEAVYって名前を使って何か一緒に作らない?』と誘っていただきました。ちょうど僕もウルトラライトをもっとおもしろくできるんじゃないかなって考えていたところだったし、その名前がぴったりだったので一緒に動きだしました。しばらくしてから大きなギャラリーで個展をやることになったんですけれど、どうも石川さんと僕じゃスペースを余してしまう。そこで神山くんに手伝ってもらうことに。それが信じられないくらいフィットしたというか、神山くんのおかげもあって個展が大成功。それから3人で活動するようになりました」。

それからはアートユニットとして活動するようになり、その動きはアウトドアシーンからファッションシーンで話題となる。そんな人気を集めるULTRA HEAVYが提案したいこととは?
「山登りの装備はメーカーが主体になっています。確かにフィールドには危険がいっぱい潜んでいるから、メーカーが言うことはほとんど正しいです。でも、低い山なのにエベレストに登るようなスペックの装備で挑んでいる人がたくさんいるのも事実。その格好が間違いだとは言い切れませんが、僕からすると歩きにくくて逆に危険なんじゃないかと思うことも。ULTRA HEAVYはそういうシーンに対して〈自分らしくやれているかい?〉って問いかけています。“迷っているくらいならソファでも机でも持ってくりゃいい”というキャッチコピーがあって、それはアウトドアにはコレがいいとされているモノがあるけれど、家で使っているモノでも普段着ているシャツでもいいということ。それを見極められるようになるには、ある程度の経験が必要かもしれないですけどね。山に行っているうちに取捨選択ができるようになったら自分らしくアウトドアを楽しんでもらいたいです」。

思い出深い場所に
仲間とともに凱旋

今回のYES GOOD MARKETでは、ジェリー鵜飼さんの作品が展示され、ULTRA HEAVYのアイテムも販売される。まずは主催のSEE SEEについての印象をこう話してくれた。
「SEE SEEのプロダクトはよく知っていました。伝統工芸とアメリカのカルチャーをミックスさせているのがセンス良くてカッコいいですよね。たまに内装デザインを頼まれることもありまして、fridge setagayaでSEE SEEのアイテムを手に入れてディスプレイのひとつとして使っていたくらいお気に入り」。

そして偶然にも、会場であるINN THE PARKには思い入れがあるそうだ。
「僕、地元が静岡県三島市で、YES GOOD MARKETの会場は子どもの頃から遊びに行っていたり林間学校で泊まったりしていた場所なんですよ。そこにウルトラヘビーの3人で行けるなんて! INN THE PARKを作ったVallicansの矢部さんも友達ですし、楽しみでしょうがないです。今年も知り合いや気になっているアーティストがたくさん参加しています。みんなと一緒にのんびり過ごしたいと思います」。

PHOTO/DAIKI KATSUMATA TEXT/SHOGO KOMATSU