SNEAKER BARBER・オカポンが広げたい、靴を洗うという習慣。

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「洗うかぁ〜?」。ちょっとクセのある声とともに、くたびれたスニーカーがみるみるきれいになっていく。SNSで流れてきたあの動画を、つい最後まで見てしまった人もいるだろう。手がけているのは、プロのスニーカークリーニング師、オカポンさん。自身の技術をもとに〈SNEAKER BARBER〉を立ち上げ、ケア用品をつくり、ときには一足のスニーカーに何時間も向き合う。一方で、その原点にあるのは、栃木で家族が営んできた昔ながらのクリーニング店だ。SNS、プロダクト、職人仕事、そして家業。一見ばらばらに見える活動をつないでいたのは、「きれいにして、また使う」というごくシンプルな考えだった。昨年に続きYES GOOD MARKET(以下、YGM)へ参加するオカポンさんに、その現在地を聞いた。

オカポン
プロのスニーカークリーニング師。スニーカーケアブランド〈SNEAKER BARBER〉を展開しながら、「洗うかぁ〜?」から始まるショート動画などを通して、スニーカークリーニングの技術と楽しさを発信。家業は栃木のクリーニング会社「フジドライ」で、現在も同社の事業に携わっている。
https://www.instagram.com/okpon_the_cleaner/

「洗うかぁ〜?」より前の話。

—いまではオカポンさん=スニーカークリーニングという印象ですが、そもそもの始まりは家業だったんですよね。

オカポン:そうなんです。実家が栃木で「フジドライ」というクリーニング会社をやっていて、僕がSNSを始めた一番最初の理由も、実は「この会社をどうにかできないか」というところでした。家庭で洗える服も増えているし、クリーニング業界自体も楽ではない。そこでいろいろ試してみた中で、唯一わかりやすく成果が出たのがSNSだったんです。最初は仕事が終わって家に帰ってから、自分の部屋の半分を撮影スペースにしていました。隣にベッドがある状態で(笑)。撮影なんてやったことがなかったので、ASMR系の動画を見て、「こういうライトが必要なんだ」とか、全部見よう見まねでしたね。

—そこから、いまの「洗うかぁ〜?」につながっていくと。

オカポン:あれも完全に組み合わせです。動画を始めるときに「やるか」って言うクリエイターの方がいて、「自分だったら“洗うか”だな」と。そこに、大学時代に友達から教えてもらった『サザエさん』のアナゴさんのモノマネを足しました(笑)。それが何本も続けて伸びた時期があって、一気に認知が広がりました。ただ、会社の中では最初、動画を撮っていることが仕事としてなかなか理解されなかったんです。遊んでいるように見えたのかもしれない。だったら一回外へ出て、実績をつくってから戻ればいい。そう思って父でもある社長に相談して、東京へ出てきました。

—〈SNEAKER BARBER〉の商品も、そこから?

オカポン:東京へ出た時点では本当に何もなかったです。でもSNSを続けていると、「この靴を洗ってほしい」とか、「この汚れってどうすればいいですか?」みたいな相談が来るようになった。そこで、本当に細かいところまで気にするスニーカー好きの人たちと出会ったんです。その悩みにひとつずつ答えていった結果、商品が増えていきました。だから僕の中では、〈SNEAKER BARBER〉って“洗剤のブランド”ではないんですよね。SNSで見せている「オカポンならこう洗う」という方法を、誰でも再現しやすくするための商品です。商品だけではなくて、洗い方や考え方まで一緒に届けたいんです。

新品に戻すより、汚れをためない。

—そもそも、なぜ〈SNEAKER BARBER〉という名前なんでしょう?

オカポン:美容室とか理容室のイメージです。髪は定期的に切りに行くのに、靴って洗わない人は本当に一度も洗わず、そのまま履き潰すじゃないですか。でも汚れって、時間が経つほど何層にも重なって、酸化したり固着したりして取れなくなる。それを落とそうとすると、どうしても強い処理が必要になります。だったら、バーバーに通うみたいに靴も定期的にメンテナンスすればいい。そういう意味で、この名前がすごくしっくりきました。

—“汚くなったら洗う”ではないんですね。

オカポン:歯に近いと思っています。悪くなってから治すだけじゃなくて、今は予防するじゃないですか。僕が何年も履いている〈CONVERSE〉も、まだかなり白いですよ。毎日磨いているわけじゃない。ただ、汚れに気づいたときにちょっとケアする。それだけでも全然違うんです。

—一方で、プロとして依頼を受ける一足には、とことん向き合う。

オカポン:そこは別物ですね。僕自身はまず、自分の靴なら自分でやってみてほしいと思っています。でも僕に依頼してもらう場合は、ちゃんとお金をいただくので、全部責任を持つ。例えば履きジワを伸ばして終わりではなく、そのシワに沿って残っている線状の汚れまで追う。本来白いステッチなら、そこも白く戻す。ほぼ新品に近づけるような作業です。以前、当時かなり高額で取引されていた〈NIKE〉のスニーカーを預かったこともあります。さすがに失敗できないので、作業する前に保険会社まで確認しました(笑)。

—そこまで細かい仕事を求める人がいるんですね。

オカポン:安く洗うだけなら、選択肢はいくらでもあります。それでもわざわざ僕を選んでくれる人は、「この人なら任せられる」と思って来てくれている。写真だってスマホで簡単に撮れますけど、プロじゃないと届かない領域が絶対あると思うんです。僕も多分、そこにいるんですよね。以前、人を雇ってクリーニングを任せたこともあったんですけど、僕には見えている汚れが、その人には見えていないことがありました。最初は「何度言っても伝わらない」と思っていたけど、あとになって「そもそも見えているものが違うんだ」と気づいた。職人の技術って、手順だけ教えれば渡せるものではないんですよね。

自分じゃなくても、靴を洗う人が増えたら幸せ。

—昨年のYGMでは、お客さんと一緒に靴を洗っていました。

オカポン:そこで、すごく印象に残っているご夫婦がいるんです。旦那さんの靴を二人で片足ずつ洗っていて、僕が別のお客さんを接客している間も、「きれいになったね」「本当だね」って楽しそうにしていました。スニーカーのイベントに出ると、「オカポン、これどうやるの?」って技術を求められることが多いんです。でもYGMでは、もっと単純に「靴を洗うこと自体が楽しい」という時間が生まれていた。それを見たときに、「これ、僕じゃなくてもいいじゃん」と思ったんですよ。

—それは寂しいことではなくて?

オカポン:むしろ逆ですね。僕が本当に届けたいのは、技術そのものというより、「靴をきれいにする習慣」なので。オカポンが好きだから一回やってみた、だと、僕に飽きたら終わるじゃないですか(笑)。でも「靴を洗うって意外と楽しいな」と思ってもらえたら、次から自分でやる。去年のYGMでは、それが初めてちゃんと見えた気がしました。

昨年出店した際に使われたブースの看板は、会場の装飾に惹かれて譲り受けたそう。「S」はSNEAKER BARBERの頭文字。

—では、今年はどんな内容に?

オカポン:僕がきれいにした中古のスニーカーを販売できたらと思っています。洋服は古着を普通に買うのに、靴になると抵抗がある人は多い。それは当然だと思うんです。誰かが履いたものだから、衛生面も気になる。でも、プロが中まできちんと洗って、「オカポンがクリーニングしました」となったら、少し安心して選べるんじゃないかと思って。別にプレミアスニーカーだけじゃなくていいんです。定番モデルだったり、ジムへ行くための靴だったり。「新品で1万円以上出すほどじゃないけど、これなら欲しい」と思えるものがあっていい。中古のゲームソフトを買うくらい普通に、中古の靴を選ぶ文化ができたら面白いですよね。

—それも、最終的にはクリーニングという仕事へ戻っていくと。

オカポン:そうなんです。いま僕はスニーカーというすごく狭い領域でクリーニングを表現していますけど、「フジドライ」には洋服を洗うことに関して僕よりずっと技術のある職人がいます。僕がスニーカーやリユースを入口にクリーニングの面白さを伝えて、その先で洋服の相談が増えたら、実家の仕事にも戻していける。会社を出るとき、「これを伸ばして戻ってくる」って言ったんですよ。まだ自分が思っていたところまでは行けていないですけど、最初の目的はずっと変わっていません。でも、去年のYGMで楽しそうに靴を洗っていた二人を見て、少しだけ答えが見えた気もしました。僕が一足一足きれいにすることだけがゴールじゃない。自分で靴を洗う人が増えて、きれいにしながら長く履くことが普通になる。そうなったら、〈SNEAKER BARBER〉っていう名前をつけた意味も、ちゃんとあるのかなと思います。

Photo:Shinsaku Yasujima
Edit & Text:Jun Nakada