気になったものを、細かくスクラップしているわけではない。それでも頭に残っているものなら、きっと自分にとって大事なもの。「ARCTOM(アクタム)」を手がける芳賀さんのものづくりは、そんな記憶の蓄積からはじまる。小学生の頃に買ったスニーカー、古着、UKのバンド、雑誌のフォント、スポーツウェア。そして、繊維商社で10年以上携わってきた服づくり。そのすべてを自分のフィルターを通して、“ARCHIVE”と“CUSTOM”という考え方で新しい服へと組み替えていく。まだ2024年にはじまったばかりのブランドが、初めてお客さんの前に立つYES GOOD MARKET(以下、YGM)。その前に、まずは「ARCTOM」がどんなブランドなのかを聞いてみた。
芳賀健太 ARCTOM Founder / Designer
愛知県出身。高校卒業後、名古屋のファッション専門学校へ進学。繊維商社で10年以上、アパレルの企画やデザイン、生産に携わる。コロナ禍をきっかけに自身のブランド構想を本格化させ、2024年10月に「ARCTOM」をスタート。企画から素材、グラフィック、仕様設計、梱包、発送まで、生産以外のほぼすべてを自身で担う。現在は愛知県を拠点に活動中。
https://www.instagram.com/arctom_jp/
自分の色を出せる場所を、自分でつくる。

—「ARCTOM」をはじめる前から、ずっと服をつくる仕事をされていたそうですね。
芳賀:繊維商社で、企画やデザインに携わっています。もう10年以上になります。ブランドさんと一緒に素材を考えたり、デザインを提案したり、合う工場を探してサンプルをつくったり。カジュアルだけじゃなく、スポーツ、ワーキング、インナー、パジャマまで、本当にいろいろやってますね。
—それだけたくさんの服づくりに携わりながら、自分のブランドをやりたかった。
芳賀:商社の仕事は、ブランドさんと一緒につくり上げるのが前提なので、自分の色を出しきるものではないんです。コロナの頃に少し仕事が落ち着いて、自分のことを考える時間ができて。もともとブランドをやってみたい気持ちはありましたし、自分の中でもある程度ものづくりができるようになってきたタイミングでもあったので、だったらもう一段階進んでみようかなと。

—そもそも、服を好きになったのはいつからですか?
芳賀:小学校6年生のときに買った「NIKE」のエア フォース 1がきっかけです。そこからスニーカーにのめり込んで、中学、高校では友達と古着屋に行ったり、ブランドのアーカイブを探したりしていました。高校ではバンドもやっていて、Arctic MonkeysやOasisみたいなUK音楽が好きで、服もいわゆるストリートより、ドクターマーチンを履いたり、少しヨーロッパ寄りのスタイルが好きでした。
—最初に「ARCTOM」でつくったのはスウェットだったそうですね。
芳賀:スウェット、キャップ、デニムは、自分の中の定番アイテムとして外せないものです。まずは誰かに向けた商品というより、自分が「このサイズ感なら着たい」と思えるスウェットが欲しくでつくったのが最初でした。
44インチの501®も、街で見た景色も。

—「ARCTOM」という名前の由来は?
芳賀:完全に造語です。自分がこれまで見てきたものとか、培ってきた考え方をブランドとして出したいと思っていて。そのときに「ARCHIVE」と「CUSTOM」という二つの言葉が、自分にはすごくしっくりきたので、掛け合わせて一つの言葉にしました。


—アーカイブといっても、昔の服をそのまま再現するわけではないですよね。
芳賀:そうですね。昔見たものや好きだったものを、自分なりに組み替えるイメージです。最初につくったスウェットは、袖にリフレクターのテープを入れています。スポーツウェアやナイロンジャケットにあるような要素を、スウェットに持ってきたら面白いなと思って。

—これから展開される予定のデニムも、発想が面白いですね。
芳賀:あえてサイズの大きいジーンズを穿くのが好きで、例えば501®の44インチを、ウエストを折ってタックみたいにして穿くんですけど、そうすると意外とシルエットがきれいに出る。それをもっと普通に穿きやすくできないかなと思って、自分なりにつくったのがこのジーンズです。
—まさに「ARCHIVE」と「CUSTOM」ですね。普段から資料をかなりストックしているんですか?
芳賀:それがほとんどしてないんです、写真を保存したりはしますけどほぼ見返さないですし。仕事の先輩から「常にアンテナを張っておけ」と言われてきたので、気になった着こなしや洋服のシルエット、デザイン、建築、風景、雑誌、広告があると、自然と目で追っています。それで、あとになって振り返った時に頭に残っているものは、自分の中ではかなり印象が強かったということだと思うので、それをベースにデザインを考えていますね。

—「ARCTOM」では、生産以外をほぼ全部一人でやられているそうですね。
芳賀:素材を選んで、サイズを決めて、仕様書を書いて、グラフィックもつくります。下げ札なんかの副資材もつくりますし、梱包も発送も全部自分です。前にキャップを発送したときは、家の中が段ボールだらけになりました(笑)。
—販売も基本的には受注にされています。
芳賀:一番は、欲しい人にちゃんと届いてほしいからです。完売したら追加でつくらないことでブランドの価値が上がる、という考え方もわかります。でも、全部が全部「もう買えません」なのもどうなのかなと思っていて。つくれるものなら、欲しいと言ってくれる人に届けたい。そこは大事にしていますね。
ECのブランドが、初めて顔を合わせる日。

—「ARCTOM」にとって、YGMは初めてお客さんと直接会える場所になります。
芳賀:そうなんです。ちょうど今年の秋に、自分でもポップアップイベントをやりたいと思って場所を探していたタイミングで、アーバンリサーチの村手さんから声を掛けていただきました。「ARCTOM」は基本ECでの販売だけなので、買ってくれた方の顔もほとんどわからないですし、写真だけだと、素材感やサイズ感も全部は伝わらないですよね。だから実際に手に取ってもらいたいですし、「いつも買ってます!」みたいな方がいたら、ぜひ話してみたい。リアルなコミュニケーションを場を持ちたいと思っていたので楽しみです。
—YGM自体は以前から知ってました?
芳賀:まだ行ったことはないのですが、SNSを見て知っていました。僕の中では、音楽フェスのファッション版みたいなイメージ。服を見て、買って、ご飯も食べて、いろいろな人と会って、話して、丸一日楽しめる感じ。今回は他のブランドの方と交流できるのも楽しみのひとつです。普段の仕事だと規模の大きなショップさんなどと関わることが多くて、個人でブランドをやられている方たちとお会いする機会が少ないので。

—今回はYGMとのコラボレーションアイテムもありますが、ご自身のブースでは何を?
芳賀:YGM用に用意した新作アイテムに加えて、過去のアーカイブも一部持っていこうと思っています。あと、先ほどお伝えしたジーンズも展示できたらいいなと。

芳賀:やっぱりECだと数字で肩幅や着丈が書いてあっても、それだけでサイズ感を想像するのって難しいと思うんです。だから今回は、買う、買わないだけじゃなくて、まず手に取って見てもらえたらうれしいですね。

—ブランドをはじめて約2年。今後について考えていることはありますか?
芳賀:一番は、長く続けることです。ブランドってたくさん生まれていますけど、いろんな事情でやめてしまうところもある。僕自身ずっと服づくりの業界にいるので、続けていくことが簡単じゃないのもわかっています。でも、そこをやらないと意味がないと思うんです。ストリートっぽいものも好きだし、アメカジも好き。今っぽいクリーンなシティスタイルだけじゃなくて、少し土臭いものも混ぜながら、「ARCTOM」らしいアイテムを増やしていきたい。まずは続けること。そして、長く愛されるブランドにしていきたいですね。
Photo:Shinsaku Yasujima
Edit & Text:Jun Nakada