野菜を売るだけじゃない。青果ミコト屋が、畑と食卓のあいだで続けてきたこと。

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自然栽培の現場から出発し、全国の農家を訪ねながら、横浜市青葉区を拠点に“畑と食卓”をつないできた青果ミコト屋。代表・鈴木鉄平さんが目指してきたのは、オーガニックを一部の人だけの価値観に閉じず、もっとカジュアルにひらくことだった。だからファーマーズマーケットの外へ出て、イベントではパッタイを出す。店を持ち、行き場を失いそうな野菜を受け止め、時にはアイスクリームにも変える。形は違っても、すべては「おいしい」から始まる入口。YES GOOD MARKET(以下、YGM)の初期から参加してきた鈴木さんに、その16年近い歩みと、八百屋がいま担う役割について聞いた。

鈴木鉄平
青果ミコト屋 代表。農家で約2年間研修し、自然栽培の現場を経験したのち、「畑と食卓をつなぐ八百屋」を目指して青果ミコト屋をスタート。横浜市青葉区を拠点に、全国の生産者と関係を築きながら、野菜の販売・卸・定期宅配、飲食、アイスクリームなどへ活動を広げている。YGMには初期から参加。
https://www.instagram.com/micotoya/

マイノリティのままでは、届かない。

— もともとは農家を目指していたそうですね。なぜ、作る側ではなく八百屋になったのでしょう。

鈴木:2年くらい農家さんのところで研修していて、本気で農家になろうと思っていました。千葉の銚子で、農薬や肥料を使わず自然栽培をしている農家さんです。そこで市場への出荷にも行っていたんですけど、少し虫食いがあるとか、傷があるだけで、野菜の価値があっという間に下がってしまう現場を見ていたんですよね。

でも、形や色艶が違うのは、優劣というより個性じゃないですか。人の顔がみんな違うのと同じで、本来は自然なこと。そういうことを食べる人に伝えられる、オルタナティブな八百屋が必要なんじゃないかと思ったんです。農家はいつかやろうと思いつつ、まずは“畑と食卓をつなぐ八百屋”をやろうと。

ー当時から有機農業や自然食品の文化はあったと思います。

鈴木:そうですね。先輩たちが続けてきた有機農業の歴史もあるし、小さな自然食品店もずっとあった。ただ、かなり“分かる人たち”の世界でもあったと思うんです。僕自身、始めた頃はタイパンツを穿いて、髪を編んで、街を裸足で歩いていたくらいなので(笑)。自然が好きな人とはめちゃくちゃ話が合う。でも普通に暮らしている人からすると、「ちょっとスピリチュアルな人なのかな」と一歩引かれてしまう。

それじゃ、いつまで経ってもマイノリティのままだなと思ったんです。僕はこういう食べ物や農業が世の中に必要だと思っていたから、いかに間口を広げるかが八百屋をやる目的のひとつになった。途中から「もう少しシティボーイっぽくならなきゃな」って(笑)。それくらい、カジュアルに届ける方法を考えるようになりましたね。

ーその結果、ファーマーズマーケットだけではない場所へ出ていった。

鈴木:ファーマーズマーケットは、もともと興味がある人が来るから、ある意味では売りやすいんです。でも僕がやりたかったのは、興味がない人にどう興味を持ってもらうか。そこで気づいたのが、“いいもの”という価値観ならジャンルを超えてつながれるということでした。クラフトでも料理でも、本当にいいものを突き詰めたら、やっぱり豊かな自然や土とは切り離せない。

だからクラフトのマーケットやスポーツイベント、映画祭、フェスみたいな場所にも出るようになった。毎食じゃなくていいんです。今日の一食だけでも、おいしい野菜を丁寧に食べてもらえたらいい。その入口を増やしたかったんですよね。

農家の“恵み”だけでなく、“困った”も受け取る。

ー長く店舗を持たずに活動してきたなかで、2021年にお店を構えます。大きなきっかけは何でしたか?

鈴木:それまでは飲食店への卸と定期宅配が中心で、必要な量が事前に分かる受発注の商売でした。ロスが出にくいし、農家さんの野菜を無駄にしたくない僕らには心地よかった。でも農業って、天気ひとつで状況が一気に変わる。大雨の前に全部収穫したいとか、急に暑くなってナスが一気に太るとか。そういうとき、店がない僕らは「とりあえず全部送ってよ。何とかするから」と言えなかったんです。

ずっと農家さんと二人三脚と言いながら、できたときの恵みはシェアしてもらうのに、リスクは共有できていなかった。あるとき、農家さんの手違いで予定以上の野菜が届いて、近くの別の八百屋さんへ持っていったことがありました。そこはすでに同じ野菜を仕入れていたのに、「これはうちで買い取るしかないでしょう」と追加分まで引き受けた。その姿を見て、すごく悔しかったし、自分たちもこうならなきゃいけないと思ったんです。

ーお店ができたことで、「何とかする」と言えるようになった。

鈴木:そうです。実際、注文ミスで大量の大根が届いたときも、「こんなことが起きたから、みんな買いに来て」と伝えたら、お客さんがすごく気持ちよく買ってくれた。環境や農業のことは気になっていても、直接何ができるか分からない人は多いと思うんです。でも、事情を知って一本買うことならできる。それって、すごく気持ちのいい消費なんですよね。

だから店では、野菜だけじゃなく背景もできるだけ伝えます。どんな人が、どんな場所で、どう育てたのか。農家さんはどう食べるのがおすすめと言っているのか。話を聞いて買った野菜って、みんな大事に料理するんです。冷蔵庫で忘れにくくなるし、ちゃんとおいしく食べようとする。八百屋ができることって、そういうところにもあると思っています。

ーアイスクリームも、農家さんの“困った”を受け止める方法のひとつですね。

鈴木:完全に受け皿ですね。「とにかく送ってくれたら、アイスにするから」と言える。野菜は足が速い(消費期限が早い)のが扱いづらいところだけど、アイスにすれば、おいしく食べられる時間を伸ばせる。僕らみたいな八百屋にとっては、けっこうマジカルです。

規格外とか虫食いとか、一見ネガティブに見えるものでも、アイスにすると新しい価値になる。店のランチも、今週余りそうなもの、またたくさん届くもの、農家さんが困っているものからメニューを考える。ロスを減らそうと構えるというより、好きな農家さんが作ったものを、できるだけ無駄にしたくない。それが根っこですね。

パッタイは、いちばん賑やかな入口。

ーイベントでは、野菜よりパッタイが名物になっています。八百屋がなぜパッタイを?

鈴木:ずっと野菜や果物を売り歩いていたんですけど、正直、イベントではそんなに売れないんですよ(笑)。それで料理も出すようになって、たまたまパッタイを始めたら、そっちの方が売れるようになって。そのうち“パッタイで呼ばれる”ようになりました。

なぜパッタイかは、僕が好きだったから。それだけです(笑)。でも、やってみるとイベントにすごく向いていて、鉄板で一気に作れて、混んでも回せるし、目の前でバーッと焼くライブ感もある。僕は的屋みたいな感じが好きなんです。お祭りみたいで、それ自体がエンターテインメントになる。今は野菜を並べず、パッタイだけというイベントもあります。八百屋なのに、ほぼパッタイ屋ですね(笑)。でも、それが青果ミコト屋を知る入口なら全然いいと思っています。

ーYGMにも初期から参加されています。鈴木さんから見て、どんなイベントですか?

鈴木:最近は食のマルシェにもファッションの要素が入って、洗練されたイベントが増えていますよね。でもYGMは、昔から“選ぶ目”に一本筋が通っている感じがする。ファッションだけじゃなく、クラフトも飲食も、それぞれジャンルは違うけど、「これが好き」「これはいいよね」という感覚がちゃんと共通している。だから出店者同士でも、細かく説明しなくても通じる安心感があるんです。

実際、そこで知り合った飲食店への卸が始まったり、アーティストとつながったりもした。お客さんとの出会いだけじゃなく、出店者同士の小さなコミュニティが生まれる場所でもある。僕自身も買い物が楽しみで、パッタイで稼いだお金を会場でほとんど使って帰るくらい散財してます(笑)。

ー今年もパッタイで出店予定だそうですね。どんな一皿になりそうですか?

鈴木:そのとき余りそうな野菜だったり、農家さんが困っている野菜だったり、規格外のものもできるだけ使うと思います。在来種も入れられたらいいですね。僕らは全国の農家さんと付き合う中で、土地ごとに残ってきた在来種も大事にしています。味が均一じゃなくて、力強かったり、癖があったりする。「こいつ、癖強いな」みたいな野菜もいる(笑)。でも、そういう情報量の多さがおもしろい。

僕にとって“いい野菜”は、ただ甘い野菜ではないんです。インパクトがあって味が濃いのに、最後はすっと軽やかに消えて、また食べたくなる。人でも、すごく印象に残るのに去り際がさらっとしていて、また会いたくなる人がいるじゃないですか。野菜もそんな感じ。難しいことを全部知らなくても、「おいしかったな。また食べたいな」でいいんです。パッタイもきっと、その最初の一口になれば十分なんだと思います。

Photo:Shinsaku Yasujima
Edit & Text:Jun Nakada