ハムカツにフライドポテト。YES GOOD MARKET(以下、YGM)でおなじみになった酒井商会の味に、今年は焼売やおばんざい、塩レモンのまぜそばが加わる。2024年からオフィシャルフードを担い、今回で3年目。好評だったメニューを繰り返すこともできるけれど、酒井さんたちは毎年「今年は何が必要か」を考え直すという。料理だけでなく、接客や空間も含めて心地よい時間をつくる。酒井商会が大切にしてきた姿勢は、店を飛び出したイベントの現場でどう生きているのだろう。代表の酒井英彰さんに、今年の一皿から、3年分の経験の使い道までを聞いた。
酒井英彰 酒井商会代表
オーストラリアで料理の仕事を始め、帰国後は国内料理店での修行を経て独立。2018年に渋谷「酒井商会」、2020年に恵比寿「創和堂」を開業。YES GOOD MARKETには2023年の静岡開催から参加し、2024年よりオフィシャルフードを監修。
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毎年、いちから考える。

ー3年目となる今年。メニューを考えるうえで、以前と変わったことはありますか?
普段の店の営業と似ているんです。季節が巡ると「去年のあれを、今年もやろうか」という話になる。でも、いざ考え始めると「今年はこうしたほうがいいんじゃないか」という気持ちが出てくるんです。YGMも一昨年、去年と「よかったよ」と言っていただきましたし、同じメニューでもいいのかもしれない。だけど、今年はもっと喜んでもらえるものは何だろう、オフィシャルフードを頼んでよかったと思ってもらうには何が必要だろう、とチームで考え直しています。非効率かもしれないですが、その作業は毎年やっています。



ー一方で、雲仙ハムカツや唐揚げ、フライドポテトは今年も続投ですね。
はい。積み重ねてきた経験やノウハウはありますし、普段とは違う環境で料理を出すクオリティも上がっていると思います。だからこそ、去年と同じことをするのではなく、経験を使って今年は何ができるかを考えたいんです。
ー新顔の黒豚海老焼売は、どういう経緯で加わったのでしょう。
実は酒井商会ではずっと出している定番なんです。常連さんにも人気がある一方、大きなイベントではあまりやってこなかった。小さなイベントやケータリングで出したことはあるので、今回YGMでやったら喜んでもらえるんじゃないかと。何もないところから新作を考えるだけでなく、店でやってきたことをイベントに持っていく選択肢もありますよね。
買い物の合間にも、一日の途中にも。

ーおばんざい3種盛り合わせが、イベントのメニューにあるのは少し意外でした。
イベントの食事って、どうしても揚げ物など、しっかりした味のものが多くなりがちです。でもYGMには、一日中会場にいる方も、フードブースに何度も来る方もいるんです。最初はビールとポテトやハムカツでも、時間が経つとさっぱりしたものが欲しくなる。僕らは和食の店なので、そんなときにちょっとホッとするような料理を入れたいね、と話しました。

ー一食の満足だけではなく、一日を通した食べ方を考えているんですね。
一回しか食べられないなら、カレーやラーメンを一食、という形でも満足してもらえると思います。でも、YGMを一日まるごと楽しみたい人もいる。何度も来て下さるお客さんや会場で働く方のことも考えて、揚げ物だけではない選択肢をつくりたかったんです。今回のおばんざいは、ごぼうとドライトマトのきんぴら、レンコンの南蛮、お揚げと小松菜を使った一品を組み合わせています。

ー釜揚げしらすの塩レモンまぜそばも新メニューです。
毎年、ご飯ものや麺類など、お腹にたまる料理は一品入れているんです。以前はカレーやうどん、焼きそばを出していました。最近、他のイベントでまぜそばを出す機会があって、僕らの中でもいいメニューだね、という話になって。麺は製麺所にお願いしてつくってもらっています。塩レモンでさっぱり食べられるうえ、汁がないので、調理設備が限られるイベントの現場でも扱いやすいんですよ。
ー屋外に合わせた料理であっても、味のベースは普段の店にあるのでしょうか。
はい。ハムカツや焼売は店でも出していますし、唐揚げは形こそ違っても、使うタレなどは共通しています。おばんざいも、普段使っている出汁や調味料、仕込み方がベース。まぜそばも普段の営業で使ってきた味を組み合わせています。イベントだから全部別物ということではなく、あくまで酒井商会の延長線上にあります。
フードブースの、その先まで考える。

ーYGMという場所だからこそ、意識することはありますか?
入場無料なので、朝から限定商品を目当てに並ぶ方もいれば、通りがかりに立ち寄る方もいる。買い物をして、ちょっと食べて、また会場を回る。そういうクイックな過ごし方には、スナック的な料理が合うと思うんです。一方で、一日いる方には、途中でさっぱりしたものや、お腹にたまるものも必要になる。自分たちの店のブースなら一品に絞るやり方もあるでしょうけど、オフィシャルフードは、いろいろな人のニーズをカバーする必要がある。尖りすぎず、酒井商会らしさも残す。そのバランスを考えています。

ーメニューづくりだけでなく、現場の準備にも3年分の経験が生きていそうです。
かなり変わりましたね。担当スタッフが毎年、何が足りなかったか、何を用意しておけばよかったかを記録してくれています。最初は京都で生ビールを出すにも、どこの業者さんに頼めばいいのかというところから手探りでした。でも、今年は「ここにお願いしよう」と判断できる。必要な数量の見当も、過去の記録があると違います。経験を重ねるにつれて、現場の精度は確実に上がってますね。
ーそのノウハウは、酒井商会だけのものにしなくてもよさそうです。
そうですね。初めて参加する飲食店なら、ビールの業者さんや冷蔵設備一つとっても分からないことがあると思うんです。僕らが蓄積してきたことを共有して、ほかのお店も参加しやすくなるなら、そういう形でYGMに恩返しできるかもしれません。飲食のプロとして、料理以外の部分でも力になれたらいいですよね。

ー酒井さん一人ではなく、チームやお店のお客さんとのつながりも、活動を支えているのでしょうね。
今は僕が把握していない常連さん同士のつながりも、本当にたくさんあるんですよ。スタッフ一人ひとりが、自分のお客さんという感覚で、それぞれいい関係をつくってくれている。みんながいい接客や料理を積み重ねているから、そういう輪ができているんだと思います。

ー3年目のオフィシャルフードとして、最後にどんな手応えを残したいですか。
今は主催者のみなさんに、基本的にお任せいただいている感覚です。それだけ信頼してもらっているのは、ありがたいですよね。オフィシャルという役割を任せてもらう以上、その期待には応えたい。関西では、まだ酒井商会に来たことがない方も多いと思うので、フライドポテト一つ、唐揚げ一つでも「なんか、いいね」と感じてもらえたらうれしいです。3年目として、これまで以上に完成度を上げて臨みたいと思います。
Photo:Shinsaku Yasujima(Portrait), Shuhei Kojima(Food)
Edit & Text:Jun Nakada