好きなものは、尽きない。BLANKMAGがつくるカルチャーへの入口。

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一冊の本から知らないアーティストを知る。一本の映画をきっかけに、遠い街のカルチャーを掘り始める。そんな小さな「入口」をつくり続けているのがBLANKMAGだ。90年代に映画『KIDS』と出会って以来、ニューヨークのストリートカルチャーを追い続けて30年以上。いまでは本を出版し、服をつくり、憧れ続けたニューヨークに店まで構えた。それでもBLANKMAGはブランドではないという。「心底好きなものだけを追い続けるプロジェクト」。その最新形を求めて、愛知県豊橋市にあるショップを訪ねた。

BLANKMAG
90年代中盤〜2000年代のニューヨーク・ストリートカルチャーに魅了され、30年以上にわたりアート、写真、ファッション、音楽、スケートなどを独自の視点で追い続けるカルチャーレーベル。本やZINEの紹介・出版、アーティストとのプロダクト制作、ショップ運営などを展開し、2025年にはニューヨークに「BLANKMAGBOOKS NYC」をオープン。
https://www.instagram.com/blank_mag/

ずっと、「プロのファン」のままで。

—改めて、BLANKMAGはどんな存在なのでしょうか。

BLANKMAGをブランドだとはあまり思っていません。出版社でも、本屋でも、ギャラリーでもあるんですが、そのどれかひとつでもない。一番近いのは、自分自身が心底好きなものを追い続けるための「プロジェクト」だと思っています。面白い本を見つけたら紹介するし、残したいものがあれば出版する。好きなアーティストがいたら一緒に何かをつくる。最初から「BLANKMAGはこういうもの」と決めているわけではなく、そのとき自分が本当に面白いと思ったものによってアウトプットは変わります。ただ、「自分自身が心底好きなものだけをやる」ということは絶対に変わりません。

—その「好き」の原点を辿ると、やはり映画『KIDS』なのでしょうか。

そうですね。初めて観たとき、「自分が知っている世界と全然違う」と衝撃を受けました。当時の日本にいる自分からすると、そこに映っているニューヨークの若者たちのファッションやスケートボード、音楽、街まで、すべてが新鮮だった。そこからSupremeやNYのスケートカルチャー、写真、アート、本やZINEなどをどんどん掘るようになりました。面白かったのは、それぞれが別々ではなかったことです。スケーターがアーティストと遊んでいたり、写真家がストリートの人たちを撮っていたり、ショップがギャラリーのような役割をしていたり。ファッション、アート、音楽、写真が全部つながってカルチャーになっていた。僕は特定のジャンルというより、そのつながりを含めた「ニューヨークのストリートカルチャー」に惹かれたんだと思います。

—ものを選ぶとき、いまも変わらず大切にしている基準はありますか。

値段が高いとか、希少だとか、有名な人がつくっているとかは、ほとんど関係ありません。背景にあるストーリーが見えるモノが好きです。最近は、旅先で思い入れのあるものを買ったり、面白かった映画のグッズや、ライブでグッズを買ったりすることも増えました。「このブランドだから」というより、自分が実際に体験したことと結びついているもののほうが面白い。ご当地のお土産や記念品に近い感覚なのかもしれません。

—「一人のファンとして集めること」と「BLANKMAGとして編集すること」に境界はありますか。

ほとんどないです。BLANKMAGで紹介しているものは、基本的に全部、自分が一人のファンとして欲しいと思ったもの。僕は「プロのファン」という言葉がすごく好きなんですが、BLANKMAGがやっていることもまさにそれだと思っています。好きだから徹底的に調べる。会いたければ会いに行く。作品を集める。それでもっと知ってほしいと思ったら紹介するし、残したいと思ったら本にする。普通は仕事と趣味を分けるのかもしれませんが、BLANKMAGではあまり分けていません。むしろ一人のファンとしての熱量を失わないことが、編集するときにも一番重要だと思っています。

無理だと思っていた、ニューヨークの店。

—BLANKMAGとして十数年活動するなかで、大きな転機になったのがニューヨークのお店ですか。

好きな人と一緒に本を出したり、Tシャツをつくったりして、昔だったら夢みたいだったことが少しずつ叶ってきた。そのなかで最後まで「これは絶対無理だろうな」と思っていたのが、ニューヨークに自分の店を持つことでした。でも、やっぱりやってみたいと思って行動に起こしました。

—実際にお店を持ったことで、日本からニューヨークを見ていた頃とは何が変わりましたか。

日本から見ていたときは、どうしても「憧れている側」だったと思います。でも実際にニューヨークに店をつくって、毎日そこで暮らしているダウンタウンの住人たちと関係を築いていくと、ネットでは見つけられないものが本当にたくさんある。店に突然、憧れているアーティストが本を持ってきたり、そこから別の人を紹介してもらって、新しいプロジェクトが始まったり。BLANKMAGBOOKS NYCを始めたことで、情報を探しに行くだけではなく、情報や人が集まってくるようになったことは大きいです。

—お店自体は、どんな場所になってきていますか。

オープンして約1年半経ちましたが、店を中心に新しいコミュニティが出来てきています。もともと憧れとして見ていたNYのダウンタウンカルチャーのなかで、今では僕ら自身がその発信地のひとつとして機能し始めているような実感があります。本屋、ギャラリー、待ち合わせ場所でもあり、何か新しいことが始まる場所。小さくても、面白い人たちが自然に集まるコミュニティスペースのような場所であり続けられたらいいですね。

—BLANKMAGにとって「本として残すべきもの」は、どんな基準で決めていますか。

すでに評価が決まっているものをアーカイブするというより、「今残しておかないと消えてしまうかもしれないもの」に興味があります。2000年代のNYのストリートカルチャーのなかにも、とても素晴らしい才能なのに時代に埋もれてしまって、ほとんど紹介されていないアーティストがたくさんいる。誰かが個人的に何年も追い続けているものや、ものすごい情熱で集められた記録にも惹かれます。そういうものを本にしたいですね。

—本は過去を保存するためだけのものではないと。

そう思います。例えば10年後、20年後に誰かがBLANKMAGの本を偶然手に取って、そこから知らなかったアーティストやカルチャーを調べるかもしれない。本はアーカイブですが、過去を保存するだけじゃなく、未来への「入口」をつくることも出版の役割だと思っています。

—誰にも干渉されないインディペンデントな立場も、その活動を支えていますか。

一番大きいのは、「やる理由」を自分で決められることです。売れるからやる、有名だから一緒にやるという判断をしなくていい。誰も知らない人でも、自分が面白いと思えば紹介できるし、採算が合わなくても「これは残したい」と思えば本をつくれる。外部から干渉されないからこそ、高純度なモノや企画ができる。その純度を保てることが、BLANKMAGの一番の強さだと思っています。

「これは何ですか?」から始まればいい。

—URBAN RESEARCHとの関係は、どのように始まったのでしょうか。

SEE SEEの湯本さんから紹介していただいて、URBAN RESEARCH KYOTOのリニューアルオープン(2024年11月)のときからお仕事をさせてもらっています。単純に取引先というより、僕がやっていること自体を面白がってくれたことから関係が深くなっていった気がします。URBAN RESEARCH KYOTOでは、本やZINE、アート、僕がつくるプロダクトまで含めて、その背景にあるカルチャーごと紹介させてもらっています。京都で継続しているのも、そういう実験ができる場所だからです。

—2024年、2025年と参加してきたYGMは、BLANKMAGにとってどんな場所でしょうか。

YGMの面白さは、「売るためだけのマーケット」ではないところだと思っています。もちろん販売はするんですが、それ以上に、出店している人同士だったり、お客さんだったり、普段なかなか会えない人と直接話せることのほうが面白い。僕は今、SNSでたくさんの人に情報を届けることよりも、実際に会って話すことを以前より大切にしています。いろいろな場所から面白い人たちが集まって、そこで偶然何かが起きる環境は、今のBLANKMAGにすごく合っている。僕にとってYGMは、マーケットというより大きなコミュニティに近いです。

(左)今回ブースに並ぶ本やZINEの一部。(右)インセンス ¥3,850

キャップ 各¥5,940
Tシャツ 各¥5,940

—今年のYGMには、どんなBLANKMAGを持っていきますか。

今年は、これまで以上に「今のBLANKMAG」をそのまま持っていきたいと思っています。ニューヨークで集めてきた本やZINE、自分で出版している本、新しいTシャツやキャップなどのウエア、インセンス、椅子なども持っていく予定です。Larry Clarkの写真を使ったTシャツも、少量ですが用意できたらと思っています。あと、ニューヨーク店で扱っていて、日本ではあまり流通していないものも持っていきたいですね。

折りたたみスツール ¥13,200
ピンバッチ 各¥1,320

—本、ウエア、インセンス、椅子。かなりバラバラにも見えます。

そうですよね(笑)。でも、BLANKMAGというフィルターを通して集まってきたものを、ひとつの小さな空間として見てもらえたらと思っています。ジャンルを揃えることより、なぜ自分がそれを面白いと思ったのかという理由のほうが大事なので。

—今年、会場で一番楽しんでもらいたいことは?

僕も会場にいるので、できれば、ただ買って帰るだけじゃなくて「これは何ですか?」と話しかけてもらいたいですね。本でもZINEでもTシャツでも、そこには必ず僕がそれを選んだ理由があります。そこから知らなかった人や街、音楽や映画につながっていくかもしれない。今年のYGMでは、モノ以上に、そういう「入口」を持ち帰ってもらえたら一番うれしいです。

Photo:Shinsaku Yasujima
Edit & Text:Jun Nakada