届けるのは野菜だけじゃない。旅する八百屋 青果ミコト屋。

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全国各地の生産者を訪ねて見つけた、本当においしい野菜や果物を宅配を中心に提供している旅する八百屋 青果ミコト屋。昨年のYES GOOD MARKETでは、フルコースを堪能できるYES GOOD TABLEで静岡県産の食材をコーディネートした。そもそも、なぜ旅する八百屋を始めたのか、そこにどんな想いがあるのか。代表を務める鈴木鉄平さんに話を聞いてみると、さまざまな課題が見えてきた。

生産者と消費者の間に立ち
その距離を縮めるのが役割

「もともと農家を目指していて、2年ほど農家さんのところに弟子入りして研修を受けていました」
そう話すのは、旅する八百屋 青果ミコト屋の代表、鈴木鉄平さん。八百屋として活動する以前は、その言葉の通り、農家を目指していたとのこと。

「20代はバックパッカーをやっていて、インドやネパール、タイなどの貧しい国を旅していました。現代の経済至上主義に違和感を抱きつつ、民族のプリミティブな暮らしを直接見たら衝撃的を受けました。モノはないけど豊かな暮らしをしていて、働かされている感じがしない。日が昇る頃に起きて、日が沈んだら寝るっていう、太陽のリズムで暮らしているのが羨ましかったし、みんな生き生きと働いていて、こういう幸せがあるんだって気づきました」

こうして自然栽培の農業に興味を持ち、農家を志すが、その中であることを考えた。
「農家って作るのはプロフェッショナルだけど、売るのは苦手だったりするんですよね。作物を育てるということは、すごくエネルギーを使うから、販売までできちゃう人はよっぽど器用だと思います。だから、既存の流通に頼らざるを得ない。そうすると生産者はあらゆる制約にしばられる……」

さらに、八百屋となった理由がもうひとつ。
「例えば、農薬の使用がなくならないのは、消費者がきれいな見た目の野菜を求めるからだと思っています。スーパーに行ってみると、野菜や果物の色・艶・形が全部一緒で不自然じゃないですか?それを人間に置き換えると、とんでもないことだなって思いまして。その原因のひとつが規格なんです。日本の流通って、規格が厳しすぎて、少し曲がっていたり、大きすぎたりすると、規格外になっちゃいます。そうすると、ものすごく安い値段がつけられちゃうから、農家さんに利益が出せません。でも、野菜も生き物なので、色・艶・形が違うのは当然のこと。むしろ、それが個性だって言える八百屋がいたらいいなって思い、農家ではなく八百屋になりました」

全国のあらゆる農家を訪ねてきた鉄平さん。直接足を運ぶことによって、良質な自然栽培の野菜や果物を手に取ることができるが、旅をする最大の理由は別にある。
「始めた当初はフリーペーパーや農業雑誌を見て、気になった農家さんのところに行っていたので、行き当たりばったりでした。キャンピングカーに乗って、例えば九州に行ったら2週間くらいかけて回っていて。そのうち、カメラマンやミュージシャンの仲間も興味を持ってくれて、みんなで旅をするようになりました。集まったメンバーは男ばっかりだから(笑)、野郎が汗だくでキャンピングカーから降りてくるのを農家さんがおもしろがってくれて(笑)。バイヤーっていうと、飛行機で現地入りして、畑まではタクシーで来る。そして、いきなり商談の話をする人ばかりだったそうです。なので、僕らのような動き方は珍しかったみたい。僕たちは商談がしたいんじゃなくて、農家さんとコミュニケーションを取って、お互いを知りたかったんです。そしてこういう農家さんが育てた野菜だってことを、みんなに伝えたかった。仕入れたいのは野菜じゃなくて、背景やストーリー。そのために旅をしています。野菜に限らず、流通ってそういうことだと思います」

「逆に農家さんも、どんな人が作物を売って、どんな人が食べているのか知りたいはず。市場に出荷すると、誰が食べたか分からないので、おいしかったかイマイチだったかも分からない。だから僕らは、良いことも悪いことも、農家さんにフィードバックするようにしています。誰が食べて、どんな感想か分かれば、もっと良いモノを作ろうって気持ちになるんじゃないかな。農家と食卓の間に立って、その距離を縮めることがミッションだと思っています」

旅を重ねることによって、ようやく日本でも本格的に取り組みが始まったフードロス問題に、早くから注目していた。
「僕たちは市場には行かないけど産地には行くので、農家さんを回ってコミュニケーションを取っていると、見えてくるものがあります。例えば、捨てられちゃう作物がたくさんあるということ。でも、捨てられるものもおいしいから、そのまま買い取って売ったりジャムやジュースにしたりするようにしています。ただおいしいジャムやジュースというだけじゃなくて、フードロスの問題とか社会の課題を解決できる消費になれば、めちゃくちゃ気持ちいいじゃないですか。育てた農家も、作った僕らも、買ったお客さんも、そして地球環境も。そういうことを八百屋としてやっていきたいと思っています」

さまざまな想いが詰まっている
YGM特別セットがスタンバイ

昨年のYES GOOD MARKETでは、食事を提供した青果ミコト屋。今回は特別セットを準備していると話す。
「旬の野菜か果物のセットに、エプロンと僕らが作っている不揃い人参のジュースを同梱したYES GOOD MARKETの特別セットを用意します。出荷する時期がまだ確定していないので、野菜や果物の詳細はまだ決まっていませんが、楽しみにしてもらいたいです。エプロンには、NAIJEL GRAPHさんが昨年デザインしてくれたYES GOOD TABLEのロゴをデザイン。厚手の生地じゃないから、ラフに付けてもらって、料理も楽しんでほしいです。そして、オリジナルの不揃い人参を使ったジュースは、僕らのレギュラー商品として販売していますが、毎回産地や収穫時期、品種を変えた人参を使うので味が違います。その微細な違いをワインのように楽しんでもらえるようなジュースです」

そして最後に、YES GOOD MARKETに対する期待の言葉を添えてくれた。
「YES GOOD MARKETはエキサイティングだと思います。どこを切り取ってもカッコいい。そこで買ったものや出会ったもの、ファンになったものが多いです。イベントに出店するのはアウトプットが目的だけど、YES GOOD MARKETでは同時にインプットすることが多々あって刺激になります。今年はオンラインだけの開催ですが、条件が限られると人はクリエイティブになるはずです。なんでもアリだと考える必要がないですからね。オンラインという限られた中で、イベントをどのように面白く作っていくかを楽しみにしています!」