10回目という節目を越え、YES GOOD MARKET(以下、YGM)は再び京都・岡崎公園へ。11回目の運営を担う村手謙介が見つめるのは、規模でも目新しさでもなく、会場全体を包む“いい空気”だ。インディペンデントな熱と企業の力をどう交ぜ、次の世代と京都の街へつなぐのか。全20回にわたって紹介する人、店、モノ、場所。その入口として、YGMが目指す次の景色を聞いた。
村手謙介
むらて・けんすけ。YES GOOD MARKETディレクター。アーバンリサーチのクリエイティブディレクター、URBS(URBAN RESEARCH BUYERS SELECT)ディレクター。1979年生まれ。学生時代からアーバンリサーチに勤務し、店長などを経て現職。バイヤー、ディレクターとして培った経験を生かしながら、YGMの出店者選定や会場構成、運営全般に携わる。
新しいフェーズで守るべきもの。

ー10回目を終え、11回目を迎えるにあたって、気持ちとしては一度リセットする感覚でしょうか。それとも、これまでの積み重ねの延長線上にありますか?
10回目、11回目という数字を強く意識しているわけではありません。最初に湯本さん(YGM主宰)と話していたのは、YGMとアーバンリサーチは、もともとすごく親和性が高い組み合わせではないから、少しずつ距離を縮めていこう、ということでした。今回、その距離が初めて少し交わるところまで来た感覚があります。
これまでは湯本さんたちが大きな軸をつくり、その中で僕らがサポートする形でした。今年はアーバンリサーチのチームが主語になって進める部分も増えています。自分たちの要素が入ることで、YGMがどう見え、どう伝わるのか。正直に言えば、期待より不安の方が大きいかもしれません。

インディペンデントなものと、大きな企業の力を融合させるのは簡単ではありません。規模を広げる過程で、元々あった良さや見え方が変わってしまうことはよくあること。そういう意味では、YGMも新しいフェーズに入ったと言えます。既存のものを残しながら、新しいものを入れ、次の世代へつないでいく。そのバランスをどう取るかが、11回目以降の課題です。
長く続けていれば、出店者や運営の進め方がルーティン化する部分もあります。それがYGMの安定した雰囲気につながっている一方で、新しいものを入れなければコミュニティは少しずつ停滞してしまう。何を残し、何を変えるのか。その判断に、明確な正解があるわけではありません。

ーそのなかで、変えてはいけない「YGMらしさ」とは何でしょうか。
一言で言えば、雰囲気です。英語なら“atmosphere”。出店者がつくる非日常の驚きがあり、お客さんがその空間を気持ちよく楽しめる。温かさがあって、笑顔があって、少しゆるくて、リラックスできる。誰が出るか、どんな商品が並ぶかも大事ですが、全体を包む空気が一番大切です。出店者がすべて入れ替わったとしても、その空気感だけは変えてはいけないと思っています。
イベントは開催当日だけでつくられるものではありません。僕は毎回、イベントが始まった瞬間から「来年はどうしよう」と考えています。当日は、それまで準備してきたものをきちんと体現するだけ。YGMの空気は、そのずっと前から積み重ねてきた判断の結果として生まれるものだと思います。
芯のある人が、場の温度をつくる。

ー普段のバイイングと、YGMの出店者を選ぶ目線は同じですか?
基本的には同じです。ただ、商売では「ブランドとしてはそこまで背景を感じなくても、たくさん売れそうだから仕入れる」という判断もあります。でも、そういうブランドをYGMに呼ぶかというと、必ずしもそうではありません。YGMで重視するのは、そのブランドや人に芯があるか、強いアイデンティティを持っているかです。売上や流行だけではなく、その人自身が何を考え、何をつくっているのか。そこがないと、現場で周囲の人たちと会話が生まれません。
YGMには、ファッション、フード、アート、雑貨など、異なる分野の人たちが集まります。全員が全員と話せる必要はありませんが、「この人とこの人は仲良くなりそう」という組み合わせを考え、誰も一人にならないようにする。会場の配置も湯本さんと一緒に、ひとつずつアナログに当てはめています。カテゴリーごとの正解があるわけではなく、毎回パズルのように「こっちの方がはまる」と考えていくんです。

ー新しい出店者が増えても、YGMの空気は保てるのでしょうか。
例えるなら、自分の友達のことは分かるけれど、息子の友達までは分からない、という感覚に近いでしょうか。みんながホームパーティに集まったとき、仲良くできるかは実際にやってみないと分かりません。
ただ、毎回出てくれている人たちはYGMへの解像度が高く、新しい人を自然に場へなじませてくれます。その人たちの力は大きいですね。新しい人が過半数を超えないようなバランスを見ながら、オーケストラを整えるように全体を組んでいます。
新しいコンテンツをむやみに増やしたいとも思っていません。YGMはマーケットフェスなので、一番大切なのは買い物。企画の数を増やすより、出店者や商品のラインナップを整え、非日常の空間で二日間しっかり買い物を楽しめる。そのクオリティを上げる方が重要だと考えています。

ー企業が関わりながら、そのゆるさを守るために必要なものは?
気遣いとリスペクトでしょうか。例えば締め切りを過ぎた出店者に、企業のルールだけで翌日すぐ催促するのではなく、祇園祭で忙しいならもう少し待とう、と些細なことまで相手の状況を考えるとか。何でも厳密にすると、場の空気まで硬くなってしまうので。
企業の人間でありながら、その場の空気を読み、いい塩梅で動ける人が増えれば、YGMは他には真似できないイベントになると思います。自由にやることって「1+1を2にしてください」と言われるより難しい。だからこそ、何度も現場の空気を感じながら、その感覚を次の世代へ渡していかなければいけないんです。
京都に根づき、次の景色へ。

ー今年、再び京都・岡崎公園を会場に選んだ理由を教えてください。
京都の方が、YGMらしい雰囲気をつくれたからです。大阪の会場は駅直結で人も多く、アクセスはとてもいい。でも、岡崎公園には自然があり、空間が広く、平安神宮もある。YGMが最も大切にしている“空気”をつくるには、京都のロケーションの方が合っていました。
アクセスの良さだけを求めるなら、それは他のイベントがやればいい。YGMは、わざわざ足を運びたくなる場所で、他では味わえない雰囲気をつくることを大切にしています。前回の京都開催は評判も良く、自分たちにとっても強く印象に残っていたので、もう一度ここでやりたいと思いました。

ー村手さんにとって、YGMが成功したと感じる基準は何ですか?
僕個人の基準は、来場者数や売上よりも雰囲気です。多くの人が来て、会場に楽しそうな空気が生まれていれば、成功だと感じます。
アーバンリサーチという企業にとっても、YGM単体で大きな利益を上げることが目的ではありません。YGMで生まれた楽しさやワクワクを、お店や他の仕事へどう循環させるか。イベントと店舗を点ではなく線でつなぐことが大切です。
YGMを経験したスタッフが、そこで学んだ気遣いやバランス感覚を別の仕事へ持ち帰る。YGMに来たお客さんが、後日アーバンリサーチの店を訪れたとき、どこかに同じ温度を感じる。そういう循環が生まれれば、企業として関わる意味も大きくなると思います。

ー11回目の先に、どんなYGMを思い描いていますか?
まずは京都の街に、もう少し深く根づかせたいです。二日間だけのイベントで終わらず、その前後も含めて、街の中にYGMを感じられるようなものにしたい。前回、京都の人たちに雰囲気を気に入ってもらえたなら、今年はもう少し中に入らせてもらう、という感覚です。
その上で、出店者やお客さんとのつながりを強くし、そこから新しいコラボレーションや仕事が生まれていくのが理想です。ただ、先に規模やビジネスを広げると、YGMらしい空気を壊してしまう可能性もある。だから、急がず丁寧に続けていくだけですね。
まずは、いい人たちが集まり、いい時間を過ごせる場を作り続けること。一度会場に来てもらえれば、他では味わえない空気があることを、きっと感じてもらえると思います。
Photo:Shinsaku Yasujima
Text & Edit:Jun Nakada