花と言葉でひらく、ESPOのYES GOOD MARKET。

未分類

11回目を迎えるYES GOOD MARKET(以下、YGM)のキービジュアルを手がけたのは、ニューヨークと東京を行き来しながら、街に言葉を描き続けてきたアーティスト、Stephen “ESPO” Powers(以下、ESPO)。今回は、「YES」と「GOOD」という2つのポジティブワードから、花が咲き、サインが重なり合う2つのビジュアルが誕生した。言葉と絵、街とコミュニティ、そして2日間だけ現れるマーケット。その関係について聞いた。

Stephen “ESPO” Powers
スティーブン・“エスポ”・パワーズ。1968年、フィラデルフィア生まれ。16歳の頃から“ESPO”の名でグラフィティを描き始め、1994年にニューヨークへ拠点を移す。編集長として『On The Go』誌を発行したのち、1999年からアーティスト活動に専念。フィラデルフィアICA、第49回ヴェネチア・ビエンナーレ、リバプール・ビエンナーレなどで作品を発表し、2015年にはブルックリン美術館で9カ月に及ぶ大規模な展覧会を開催した。2023年、東京・原宿にアトリエ兼ギャラリー「ESPOKYO」をオープン。現在は東京とニューヨークを行き来しながら、言葉、絵、サインを組み合わせた“ビジュアル言語”を描き続けている。
https://www.instagram.com/steveespopowers/

「YES」と「GOOD」を重ねる。

ー「YES GOOD MARKET」という名前を初めて聞いたとき、何を思い浮かべましたか?

マイナスとマイナスを掛けるとプラスになる、ということを最初に思いました。「YES」と「GOOD」は、どちらもポジティブな言葉ですよね。それが2つ並んでいるから、ポジティブさが2倍というより、3倍くらいになる感じがしました。

それから、日本で使われている英語の使い方の面白さ。英語と日本語が混ざると、本来の英語とは少し違う言葉が生まれることがよくあります。「YES GOOD MARKET」にも、日本だから成立する言葉遊びのような楽しさがありますね。

ー花を描いたキービジュアルは、言葉から始まったのでしょうか。それとも、最初から花のイメージがあったのでしょうか?

言葉から始まりました。「YES」と「GOOD」という2つのポジティブな言葉があって、そこから何かが育っていく。自然と同じですね。太陽があって、空気があって、水があれば、花が咲くように。「YES GOOD MARKET」という名前はとてもシンプルですが、シンプルだからこそ、広がっていくイメージがありました。空があって、太陽があって、花がある。それぞれが次のものを生み、育てていく。そういう意味を持たせて描いていきました。

読めなくても、意味は伝わる。

ーESPOさんの作品は、文字を読むように絵を見る感覚があります。制作するときのプロセスというのは?

最初にあるのは感情です。その感情を言葉にして、そこから形や色を足していく。今も昔もスタイルは変わってないですよ。

ー街の看板や広告に使われる文字と、作品の中の文字に違いはありますか?

広告は、商品やサービスを宣伝するためのもの。それに対して僕の作品は、自分の感情をピュアに伝えるもの。似ているようでいてまったく違います。広告が商品をプロモートしているとすれば、僕の絵は感情をプロモートしている。そういう違いというと分かりやすいかもしれませんね。

ーESPOさんにとって、国や言語を越えて残る言葉はありますか?

「LOVE」です。なぜ愛をテーマにした作品をたくさん作るのか、と聞かれることがあります。愛は僕たちがこの世界に存在する大きな理由のひとつだから。自分の作品が10年後や100年後に理解されるかは分かりません。でも、愛を描いた作品であれば、理解される可能性があるし、国や言語の壁だって越えられると信じています。

ー東京では、古い看板や標識を見て歩くことが多いとか?

品川や高円寺、恵比寿の裏道には面白いサインがたくさんあるんです。日本人だと見慣れすぎて気づかないかもしれません。でも、僕はわざわざ見に行くんです。古いお店の文字や標識には、視覚で会話するための工夫が残っていて、日本語が読めなくても、形や色を見れば、何となく意味が分かることがある。例えば「危ない」と書いてある文字が読めなくても、危険を知らせるサインだと感じることはできる。自分の作品も、同じようになればいいと思っています。書かれている言葉が分からなくても、見れば何かが伝わる。その方法をずっと考えています。

ー日本の絵文字からも影響を受けたそうですね。

初めて日本に来た頃、絵文字を見て驚きました。ひとつの小さな絵が、言葉に大きな影響を与えると本気で思ったんです。実際、今日では世界中の人たちが絵文字を使って気持ちを伝えていますよね。でも、文字ができるずっと前から、人間は絵やシンボルを使って会話していたという歴史を考えると、実は新しいもののように見えて、ずっと昔から馴染みのあるものなんですよね。

2日間だけのYGMに込めた思い。

ーもうひとつのビジュアルは、文字や形がいくつも重なっています。こちらは、どんな景色から生まれたのでしょうか?

ひとつは車を運転しているときの景色。フロントガラスの向こうに、広告や看板が次々に現れて、目の前で重なっていく様子。もうひとつは、マーケットに人が集まっている景色です。物を売る人、それを買いに来る人、散歩に来る人など。いろいろな目的を持った人たちが同じ場所へやって来て、重なっていく様子。この2つの景色が、このビジュアルの中で一緒になっています。

ーこれまで建物や店舗、街の壁にも作品を描いてきました。規模の大きい場所に描くことで、作品の役割も変わりますか?

大きくなればなるほど、作品に関わる人が増えます。建物に描けば、建物の中にいる人だけでなく、そこを通る人にも届く。自分の作品だけを作っているときは、自分のことだけを考えていればいいけど、街に描くときは、そこで暮らす人、訪れる人のために何を伝えるべきかを考える必要がある。責任も大きくなりますね。

ーYGMのように、ショップやブランド、フード、人がひとつの場所に集まるイベントについては、どう感じますか?

コミュニティに関わることは、僕にとってとても重要なこと。アーティストは、一人でアトリエにいる時間が長いので、人に会い、周りで何が起きているのかを見て、考える必要があります。コミュニティのイベントでは、ポジティブなことだけでなく、その場所が抱えている問題も一緒に見えてくることも多い。世界を少し広く見るための場所でもあると思います。YGMにはどんな人たちが集まるのか、楽しみにしています。

ーYGMの会場装飾は、毎回時間をかけて作り込みを行うのですが、開催は2日間だけ。終わればすべて解体されてしまいます。

僕がこれまで作ってきた作品とよく似てますね。壁に描いた作品の多くは、一日も残らなかったり、1週間で消えてしまうこともしばしば。今まで作った大きな作品の90パーセントは、もう存在していません。でも、それが人生でしょう。すべてのものには終わりがあって、次に繋がっていくものです。

ー当日、自分の絵が会場に置かれている景色を想像してみてください。

僕は、今回のようなプロジェクトでは裏側にいることがほとんどです。人前で何かをするより、作品を作り、その作品にあるべき場所へ行ってもらう方が自分には合っています。今回もそれは同じ。僕の代わりに絵が会場に立ってくれるので、みなさんの目に触れているところを遠くから眺めるだけでいい。見た人が何を感じ、どう考えるかは、その人たち次第ですが、よりポジティブな気持ちになってくれたら嬉しいですね。

Photo:Shinsaku Yasujima
Interpreter:Andy
Text & Edit:Jun Nakada