親近感と違和感を混在させた居心地の悪さ。高木 耕一郎が動物を通して伝えるメッセージ。

ART

刺繍やペイント、ステンシルなどの技法を使って独創性を表現し、国内外の展示やブランドとコラボレーションを果たすなど、積極的な活動を展開する高木 耕一郎さん。最大の特徴と言えるのが、動物をモチーフにしたミステリアスな世界観。かわいらしくもグロテスクであったり、凶暴でありながら悲壮感が漂っていたりと、表面的な表情に隠された深いメッセージを観る者に投げかける。彼のルーツや価値観を辿り、動物というフィルターを通して訴える真意を解明するため直接話を伺った。そこには普段の生活では気づきにくい物事の考え方が詰まっていた。

人ではなく動物を扱うことによって
純に表現したいメッセージを伝える

大学で芸術を専攻し、卒業後にサンフランシスコのアートスクールへ通いはじめた高木さん。そこで版画を学び、卒業後はニューヨークに滞在。ペインティングに没頭しつつ、友人が所属するFAILEというアートクルーの影響でステンシルの活動もスタート。そして8年間のアメリカ生活を終えて帰国後、ペイントやステンシルの作品をアパレルブランドに提供していたそうだ。
「なんとか絵だけで食べられていました。でもなんとなく、ステンシルにしっくりこないというか。驚愕的なアーティストの作品を見ていると、自分のステンシルはそこそこだなって感じてしまい、もう1ステージ、何かを乗り越えないといけないと思っていました。もうちょっとおもしろいことをできないかな、と考えていたところで出会ったのが刺繍。最初の頃はステンシルの上に刺繍した作品を作っていました」


こうして刺繍を自己表現の武器に加え、作風は動物だけを使うように変化していった。
「最初の頃は動物の他に人もモチーフにしていましたけど、この人って誰なんだって聞かれることが多くて。人間を通して“何か”を伝えようとしていたのに、個人の特定に囚われてしまって誰も先のストーリーを見ようとしませんでした。それなら、人の体に動物の頭や骸骨を乗せているほうが、その先の話を読み取ってもらえることに気づいたんです。だから、人の頭を作品に出すことはやめようと決めました」

気になってしまう余計な要素を削いだことによって、作品に込めた意図を汲み取ってもらいやすくなったそうだ。そして、高木さんが制作する大部分の作品には共通して込められているメッセージがあるという。
「不安や不安定。でもそこには、同時に幸せもある。不幸だけだと幸福は見えてこないだろうし、不安があるからこそ幸せを感じると思うんです。片方だけ見るとつまらないので、相反するものを並列的に見るということです。真実って言ったら大袈裟ですけど、世の中は何事も多角的に見た方がいろんなものが見えてくるはず。可愛い動物の作品は、それが本当に可愛いのか。気持ち悪い作品でも、それは本当に怖い内容なのか。パッと見だけではなく、文字まで読んで裏を考えてもらいたいです」

音楽から学んだ作品に対する姿勢と
無意識に反映するインスピレーション

高木さんが作品で大事にするのはメッセージ性だけではない。それは音楽から影響を受けた考え方が大きいとのこと。音楽に感じるカッコよさを自身の作品にも反映しているのだ。
「刺繍は、あまり上手になりすぎないようにしています。技術に走るとストーリーよりもそっちが目立ってしまうので。“うまいね”よりも“いいね”って言われたいのは、ハードコアが好きというのも理由です。個人的に、スキルが上がっていくとショボく感じてしまうんですよね。初期衝動を保持していないと、おかしなことになってしまうとレコードから学んでいます。ファースト、セカンドまでは良かったけど、サードアルバムがハードコアじゃなくてメタルになっちゃった、みたいにね」

ずっと聴き続けている音楽は、骨の髄まで染み込んでいる。作品に対する価値観だけではなく、自然と作風までハードコアからインスパイアされているようだ。
「ハードコア全般が好きなんです。軽いアメリカンハードコアも好きだし、クラストコアも好き。なんなら、ドゥームメタルも聴きます。時期によって集中的に聴くものがあって、それが自然と作品に反映されている気がします。ドゥームメタルを聴いている時期は、どんより重いテイストで色も暗くて、背景も汚しがち。もしかしたら、生活と音楽がリンクして作品に反映されているのかもしれないです」

初めて参加するYES GOOD MARKETは
東京にはない新鮮さを感じさせてくれるはず

今回、初めてYES GOOD MARKETに参加する高木さん。SEE SEEと繋がったのも、昨年12月23日に静岡パルコの屋上で開催されたYES GOOD MARKETだったという。
「元々SEE SEEは知っていて、手が込んだアイテムを作っている印象を持っていました。よくこんなに削ぎ落とせたなって思うこともあります。そのプロダクトは、スムースで空気感がクリア。まだ付き合いは浅いですが、湯本さんの人柄とブランドの作品は似ているんだろうなって思います。僕自身、東京生まれ東京育ちなので、東京以外に多くの知り合いがいません。だから、他の土地で作品を展示できる嬉しさは大きいです。僕のことを知らないであろう人が来てくれて、作品を見てもらえるという喜びがあって楽しみです!」

PHOTO:RYO KUZUMA TEXT:SHOGO KOMATSU