サーファーのマインドを作品に落とし込み
グローバルな活動をする花井祐介。

ART

味わい深い表情のキャラクターを描く花井祐介さん。これまでにさまざまなブランドとコラボレーションを果たしているが、今季はVANSとタッグを組んだコレクションを発表した。2016年から続くこのクロスオーバーは、国内展開ではなく全世界で販売されるグローバルラインで、それを実現している日本人アーティストは数えるほどしかいない。その日本発売を記念したローンチパーティとアートショーが原宿のBEAMS Tで開催され、在廊中とのことだったので現在に至るまでの話を聞きに伺った。

サーフィンをきっかけに
絵の道を歩みはじめる

活躍の場をワールドワイドに広げる花井さん。彼が絵を描きはじめる原体験となったのは、高校生の頃からライフスタイルの一部になっているサーフィンが関係する。
「20歳くらいの時、一緒にサーフィンをやっている先輩がバーを開くことになって、自分たちでいちから店づくりをはじめました。僕は落書きで似顔絵を描くのが好きだったので、手描きの看板やメニューを任されました。その他に、お店で開催するイベントのフライヤーとかも描いていて、徐々に絵を描くことが楽しいと思えるようになりました」。

「黄金期とも言われている’60年代のサーフィンを高校生の頃から掘っていました。’60年代初頭のサーフィン雑誌でイラストを描いていたイラストレーターは、ロックのポスターやレコードジャケットも手掛けていたからビートニクやヒッピーカルチャーにも興味を持つようになって、それが今にも繋がっていると思います。バーでイラストを描いていた頃は、その人の作風を真似して描いていました」。

「そのバーは、鎌倉界隈のサーファーや横浜のミュージシャンが集まる場所で、そういう人たちの繋がりから徐々に絵を描く仕事の依頼をもらうようになりました。それで、絵を描くことを仕事にするのもおもしろいなと思って。2003年の24歳でサンフランシスコのアートスクールへ入学しました」。

グリーンルームフェスティバルでの
偶然の出会いから世界へと羽ばたく

カリフォルニアのアートスクールで絵を勉強しはじめるが、バーで働いて貯めた学費の資金が尽き、あえなく帰国。それからは知り合いのつてを頼って看板屋で働きつつ、積極的に作品を制作する。その頃にユニクロが主催する“ユニクロ・クリエイティブアワード”に受賞したことも大きな経歴として挙げられるが、現在の活動に多大な影響を与えたのは毎年横浜で開催されているグリーンルームフェスティバル。
「グリーンルームフェスティバルにバーが出店してフードを提供することになって。相変わらず仲が良かったので、その看板を僕が描いていたんですよ」。

「グリーンルームフェスティバルって、もともとはカルフォルニアのムーンシャインフェスティバルからインスパイアされていて、第一回目はムーンシャインフェスティバルの主催者たちが、アートショーのキュレーションをしていました。そのメンバーにはアメリカのラグナビーチにギャラリーを持っているウィルという人もいて、僕が描いた看板を観て『うちのギャラリーで展示したい』と言ってくれました。そこから少しずつアメリカの展示に誘ってもらえるようになりました」。

その後は、ウィルが企画する世界各地のグループショーに参加。パリやロンドン、ニューヨーク、オーストラリアなどで展示し、世界での知名度を着実に高めていった。
「アメリカなどで展示させてもらっているうちに、アメリカ人の真似ばかりしていてもしょうがないと思ったんです。どうしたら自分のオリジナリティを出せるか、今も試行錯誤し続けていますけどね。最近では、アメリカで日本っぽくておもしろいと言われ、日本ではアメリカっぽくておもしろいと言われていて、それが自分のオリジナリティになってきているのかなと思いますが、これからもっと個性を出せるようになりたいです」。

花井さんの作品には人物が描かれることが多く、その人生を連想させる哀愁ある表情と日常を切り取っているのが特徴。作品を描きはじめた当初はサーファーをメインに描いていたそうだが、現在は直球ではない表現をするようになったそうだ。
「僕の周りにいるサーファーって、明日のことを気にしないような自由な人たちが多いんですよ。みんな目が鋭くて、キャラクターが濃い(笑)。心配になるくらい取り憑かれたようにサーフィンをしている人もいて、そういう人にこそ人間としての魅力を感じるんです。人間って絶対に失敗して落ち込んだり後悔したりしますよね。でも、お酒を飲みながらそれをネタにして笑って、また生きていくものだと思います。バーで働いていたから分かるんですよ。飲みすぎちゃって翌日に謝罪の電話をしてくる人がたくさんいて(笑)。でも、そういう人って人間味があっておもしろいなって思うし、カッコつけているだけじゃない自由奔放な人が好き。だから、サーファーに限らずそういう人たちを作品のモチーフにしています」。

世界を股にかけて活躍する花井さん。自身の作品制作以外に、毎年6月に必ずカリフォルニアを訪れ、こんな活動もしているそうだ。
「貧困層が住む地域で小学校の教師をやっていている友人がいます。そこでは数学や理科など、基礎的な授業しか義務教育で受けられず、美術や音楽は父兄がお金を出し合って先生を雇わないといけないそうです。勉強はできないけど絵を描くことが好きな生徒がいて、その子が輝ける場所を作りたくて、その先生が友達たちに相談したそうです」。

「その友達というのが、OBEYというブランドをやっているShepard Faireyや、スケーターでありミュージシャンのRay Barbee。その先生は、もともとサーフショップで働いていた経験があって、その繋がりがあったみたいです。それで、毎月1人のアーティストがボランティアで放課後に授業をやることに。僕もその授業に10年前くらい前から参加しています。毎回テーマを設けて、その言葉をイメージした絵を自由に描いてもらっています」。

世界中で活躍する花井さんが
YES GOOD MARKETに初参戦!

この取材の数日後もShepardがロサンゼルスに所有するギャラリーで、Russ PopeとGROTESKの3人でおこなうグループ展を控えているほど多忙な日々を送る花井さん。そんな世界を魅了する作品がYES GOOD MARKETでも展示される。
「ヒロくん(SEE SEEディレクターの湯本さん)とは、3、4年前に浜松のGEEというお店ではじめて出会ってSEE SEEのプロダクトを見せてくれました。ずっと立体に描いてみたいと思っていたので、静岡挽物でこけしのような人形を特別に作ってもらいペイントしたこともあります。ヒロくんは同い年だし、サンフランシスコから影響を受けているというところが一緒。だから共感できる部分が多いです。今回のYES GOOD MARKETでは、わざわざギャラリーを作ったみたいで、何事にも気合いを入れて取り組むヒロくんらしいなと思いました。INN THE PARKのロケーションも最高だし楽しみです!」

Information

BEAMS T
東京都渋谷区神宮前3-25-15 1F
03-3470-8601
https://www.beams.co.jp/beamst/
※一部完売

PHOTO/DAIKI KATSUMATA TEXT/SHOGO KOMATSU