ジェリー鵜飼が魅せるアーティストとしての表現。

ART

ブランドとのコラボレーションやメディアでの活躍で、独自の存在感を確立しているイラストレーター/アートディレクターのジェリー鵜飼さん。それ以外に、スタイリスト石川 顕さんとアーティスト神山隆二さんの3人で“ULTRA HEAVY”として活動したり、雑誌GO OUTで人気連載“SOTOKEN”を担当したりとマルチに活躍中。そして、一昨年からは小説も書き始めている。そんな彼の近況を伺いつつ、考え方や今年の目標など、現在の心境を語ってもらった。

イラストと小説で
世界観を隅まで描く

「今年は展覧会をたくさんやろうと思っていて、延期となってしまったものも含めると6回予定しています。例えば、アウトドアブランドのand Wanderがギャラリーを設立したので、それのオープニングとして展覧会をやったり、『zen hiker』を掲載しているvisvimの雑誌、Subsequence Magazineのイベントにも参加したり。まだ手は動いていないけど(笑)、頭の中ではすごいものが出来上がっています」

そう話すジェリー鵜飼さん。今までにないほどハイペースに展覧会を予定しているが、その理由をこのように話してくれた。
「去年の秋くらいに、2020年はアーティストとして自分のやりたいことをやろうと決心しました。今までの活動は、アーティストというより、アートディレクターやグラフィックデザイナー。3年ほど前、名古屋にあるTUMBLEWEEDというお店から個展の誘いがあったんですよ。個展を開催したのは10年振りくらいだったし、その10年前は初めての個展。正直、自分の絵が売れる感覚が分からなくて自信がありませんでした。でも、声を掛けてくれたのが嬉しかったし、自分が今どんな絵を描けるか確認したかったので挑戦してみたら、いい絵が描けたんですよ。そして、それが売れたのが気持ちよくて、自信に繋がりました。その後、東京のムーンライトギアというアウトドアショップで展示をしたら、個展に対する意欲が湧いてきて。そして一昨年、代官山の蔦屋書店でジェリー・マルケス展を開催させてもらうことになり、蔦屋書店で展覧会ができるのがおもしろいから、小説も書いてみました。そしたら、絵や小説などをトータルで表現することが楽しかったんですよ。絵も描きたいし、本も書きたい。でも、それって、時間がないとできないし、自分の世界に入らなきゃいけない。だから、今年はクライアントの仕事を減らそうと思ったんです」

小説のほうでは、visvimが手掛ける雑誌、Subsequence Magazineで昨年発表した『Zen hiker』の続編が控えていて、すでに原稿はほぼ完成しているとのこと。
「前作から少し間が空いちゃったから、主役の気持ちになって書くのが大変でした。主役のお坊さんがすごく嫌なヤツなんですよ(笑)」

しかし、ここで疑問が。なぜ“禅”をキーワードにしたのか。そこには、彼の制作や趣味、日頃の考え方と共感できる部分があったから。
「禅に興味を持ったきっかけは、大学生の頃、ビート・ジェネレーションに興味があって、『ザ・ダルマ・バムズ』というジャック・ケルアックの小説が特に好きでした。それの邦題が『禅ヒッピー』で、禅という言葉にピンときて。そして、僕が大変お世話になったヤン富田さんというアーティストの大先輩が、“ビート禅”という表現を使っていて、それにグッときました。禅って、ある意味日本人が苦手な言葉だと思っています。「禅って何?」って聞いても、答えられる人は少ないはず。でも、サンフランシスコで1950年代に禅がすごく流行ったように、日本でも禅の考えを難しく考えず取っつきやすくしたいと思うようになりました。ミュージシャンやスケーターの口から禅の考えがポロっと出るようにするには、「禅って何?」と深く考えず、自分たちの暮らしの中に見えるようなものにしたいなって思ったんですよ。ヤン富田さんがやっていた“ビート禅”も、そういうこと。僕が禅について発信するなら、趣味である登山を絡めるほうが書きやすいと思ったから『Zen hiker』を書きました。僕がやっているウルトラライトハイキングって、装備を削っていくミニマムな登山。だから、禅と繋がる部分があると思うんですよね。物事をシンプルに考えることは、対人関係や仕事にも活かされると思いますし」

多幸感に包まれた昨年のYGM。
オンラインでも変わらず繋がれる

昨年のYES GOOD MARKETの会場となったのは、沼津市にあるINN THE PARK。そこは、三島市出身のジェリー鵜飼さんが子供の頃に訪れたことがある場所だった。
「子供の頃に遊んでいた公園に、現在の友達がたくさん遊びに来ていて、みんなとは少し違った感情でした。INN THE PARKには当時の面影がたくさん残っているので、思い出が重なって、すごく幸せでした。モノを作ったり、モノを販売したりする人がいて、そこにいいモノとの出会いを求める人やアーティストのファンなどがいて。その全員がYES GOOD MARKETの上で繋がるのは素敵ですよね。今年はオンラインのみでの開催ですが、実際に会場に集まるのも、オンラインで開催するのも、繋がるという点では同じだと思っているので楽しみです」

今年は、得意とする水彩の作品を出品する予定だそうで、さらにはULTRA HEAVYとしてもアイテムを販売するらしい。
「徳島県に上勝町という日本で一番進んでいる町があるんです。例えば、サンフランシスコではペットボトルの販売を禁止しています。国自体では禁止されていないけれど、サンフランシスコでは禁止になっていて、独自に環境保全に取り組んでいるのがすごいと思っていました。上勝町も似たような動きをしているんです。まず、ごみ収集車が走っていません。ごみは全部リサイクルするか、肥やしにするか。そんなことできるの?ってことを、上勝町は未来に向けて実行しているんですよ」

「上勝町には、その意識を持って世の中を変えていきたいって考えている若いブランドがたくさんあります。その中に、オシャレな作業衣を作っているjockricというブランドがあって、フットボールシャツをモチーフにした割烹着も作っていました。代表の黒川さんと知り合ったので相談し、ULTRA HEAVYの別注として、袖を切りっぱなしにした割烹着を作ってもらいました。過去に色違いで作ってもらったことがあるんですけど、今回は黒で製作してもらうことに。羽織ると背中が空いているから、これを着ているとみんな反応してくれるんですよね。もともとのパッケージもオシャレで、そこにULTRA HEAVYのシルクスクリーンプリントを加えて販売しますので、楽しみにしていてください」