10回目のYGM、湯本弘通が語る原点と未来。

未分類

「非日常のショッピングを楽しめる空間」を合言葉に、静岡発のマーケットイベント「YES GOOD MARKET(以下、YGM)」は今年節目の10回目を迎える。ファッション、音楽、フードなど、様々なカルチャーを“マーケット”という形で交差させてきたYGM。その仕掛人である湯本弘通さんは、ゆるくて温かい空気感を大切にしながらも、新たなコミュニティを生み出す強い信念を持つ人物だ。10年の軌跡を振り返り、その哲学とこれからについて語る湯本さんの言葉から、YGMの魅力と熱量がじんわりと伝わってくるはず。

湯本弘通
ゆもと・ひろみち。YES GOOD MARKET主宰。2014年に〈SEE SEE〉をスタート。2020年には不規則なバランスをコンセプトとした〈Stripes For Creative(以下、S.F.C)〉のディレクションを、2024年からURBAN RESEARCH KYOTOのクリエイティブ・ディレクター、「dDdDdDd」のディレクターを務める。2025年からは、イタリアのスポーツブランド〈LOTTO〉のクリエイティブディレクターに就任。多岐にわたって活躍中。
Instagram:@see.see.sfc

10回目を迎えたYGM。

2016年、静岡の小さな公園で産声を上げたYGMは、当初から「非日常のショッピングを楽しめる空間」をコンセプトに掲げてスタートした。仕掛け人の湯本弘通さんはもともと静岡の伝統工芸「挽物」の技術を継承するHOMEWAREブランド〈SEE SEE〉のディレクター。「地元静岡にかっこいいストリート・カルチャーを呼び込んで、新しいマーケットイベントを作りたい。その想いで始めたのがYGMです」と湯本さん。

彼がYGMを発起した背景には、約10年前によく訪れていたサンフランシスコで受けたカルチャーショックがあった。「街のあちこちにインディペンデントな小さなコミュニティがあって、仲間同士で良いものを表現し合う姿に刺激を受けました。それで自分たちでもコミュニティを作ってみたい」と感じたという。そこで湯本さんは「東京と静岡って近いじゃん!」と発想を転換。東京で“かっこいい”と思う人たちに声をかけ、普段雑誌でしか見られないような人たちが静岡の会場で直接接客してくれたら面白い。そんな狙いでYGMを立ち上げた。

初回から数回は、会場レイアウトの採寸から出店者への連絡まで湯本さん自ら行うような手づくり感満載の運営だった。「最初の頃はめちゃくちゃ大変でした。それこそ会場の図面も全部一人で測って、出店者全員に連絡して」と振り返りつつ、年々仲間が増えて視覚的な演出にも力を入れられるようになり、イベントの規模とクオリティはグッと広がっていった。そして、「回を重ねるごとに、ストリートとカルチャーが混じり合う独特の“輪郭”がはっきりしてきた」という。こうして誕生したYGMは、静岡というローカルな地から始まりつつも、その後口コミやSNSで全国にファンを増やし、毎回多くの人たちを魅了する存在へと成長していった。

伝えたい想いと空気感。

YGMのコンセプトは一貫している。それは「買い物を通じて様々なカルチャーが混じり合い、新たなコミュニティが生まれる」こと。湯本さんは、「マーケットという場で異なるジャンルのヒト・モノ・コトが交わることで、ローカルを巻き込んだ新しいスタイルが生まれると信じています。YGMがそのきっかけになれば」と願っている。

2019年のYGMメインビジュアルを手掛けたペインターLYさんの原画。

実際にYGMの会場を訪れると、ファッションだけでなくクラフトビールやナチュラルワイン、素材にこだわったフードなど、メジャーではないけれど“小さくてかっこいい”ものを選りすぐって集めているのが分かる。大企業の派手なスポンサーには一切頼らず、信念に沿った本当に良いと思えるものだけを集める姿勢からは、YGMのカルチャーへの愛情が伝わってくる。

湯本さん自身「僕たちがかっこいいと感じているヒト・モノ・コトを、お客様に会場で実際に感じてほしい」と話す通り、会場には湯本さんのセンスに共鳴したクリエイターやショップが軒を連ねている。

そんなYGMの会場づくりで何より特徴的なのは、その“ゆるっとした”心地よい空気感だ。これは場所が変わっても決してブレない“YGMらしさ”なのかもしれない。マーケットイベントというと音楽ライブの大音量や人混みで慌ただしい印象があるが、YGMでは音のボリュームや空間の演出にも配慮が行き届き、来場者がのんびり過ごせる余白がある。実際、昨年も芝生エリアに腰を下ろしてドリンク片手に友人と語らう人、ベビーカーを押しながらゆっくり買い物を楽しむ家族連れなど、訪れた人それぞれが思い思いにリラックスして過ごしている光景が広がっていた。

昨年の会場ゲート(京都・岡崎公園)

湯本さんは、「日常を離れてワクワクできる非日常の空間を作り上げるために、みんなで時間をかけて構想を練り上げ、一から会場をデザインしていきます」。毎回2日間の開催が終わればそのセットを壊さなくてはならない儚さはあるものの、「それも含めてイベントの醍醐味」と笑いながら話す。その場に集う人たちが笑顔になれるような雰囲気づくりを大切にしているのだ。

コラボレーションと広がるYGMの未来。

今年の会場「大阪・うめきた公園」の施工イメージのパース。

静岡から始まったYGMは、そのカルチャーの輪を全国へと広げつつあります。昨年2024年には初めて静岡以外の地である京都・岡崎公園で開催され、大きな話題を呼んだ。今年はアーバンリサーチ発祥の地でもある大阪・うめきた公園に舞台を移し、いよいよ関西の中心地へ進出する。こうした拠点拡大の背景には、2023年からYGMを後援するアーバンリサーチの存在も大きい。パートナーシップにより開催地の選択肢が広がっただけでなく、地元関西のネットワークによって、YGMはさらにスケールアップしていく。

もっとも湯本さん自身は、「YGMは身軽でいいんです。その時の感覚で、いいと思ったらやろうぜ!っていうノリの良さが大事」と語り、場所や形式にとらわれずフットワーク軽く動いていきたい考え。実際「国内だけじゃなくて海外の可能性もあるかもしれないですし」とも言及しており、移動式のポップアップ的なイベントとして世界に飛び出す未来も視野に入れているようだ。「その土地や住んでいる人たちに敬意を払いながら、面白いことをローカルコミュニティとして作って発信していけたら、YGMはもっと面白くなる」と語る湯本さんの表情は、とても楽しそうだ。

注目のコラボレーション。

最後は、YGMの広がりを語る上で欠かせないのがコラボレーションについて。毎回、多彩なブランドやアーティストとのコラボレーションアイテムが用意されるのもYGMの魅力で、会場限定の商品を求めて早朝から長蛇の列ができるほどの熱気を生んでいる。

なかでも注目したいのが、湯本さんが手掛けるプロジェクトとのコラボレーションアイテム。YGM × SEE SEEをはじめ、YGM × LOTTOやS.F.C × LOTTO、SEE SEE × S.F.Cなど、いずれも購買欲を刺激するラインナップに。ここではその一部を抜粋。

S.F.C × LOTTOのゲームシャツ 各¥00,000

まず、今回の目玉になりそうなのが、S.F.C × LOTTOのゲームシャツ。よく見るとストライプの幅が場所によって異なるのがポイント。「独創的なストライプ」をコンセプトに掲げる〈S.F.C〉らしいデザインと〈LOTTO〉のスポーツテイストをミックスさせた、相性の良さが際立つコラボレーションとなった。

SEE SEE × S.F.C Tシャツ ¥0,000
SEE SEE × S.F.C クルーネックスウェット ¥00,000、スウェットパンツ ¥00,000

続いて、SEE SEE × S.F.C。アイコンとなる〈SEE SEE〉のロゴに、〈S.F.C〉のストライプを落とし込んだTシャツとライトオンスのスウェット上下を製作。いずれも両ブランドらしいリラックスシルエットで、たっぷり取られた身幅や腕周りが特徴的。この3型以外にも、ボーダーのカットソーやオリジナルカモ柄のシャツ、中綿入りの半袖ビッグシャツ、肌触りのいい混紡パンツなども展開予定。詳しくはYGMのオフィシャルサイト、またはSNSをチェックしてほしい。

YGMでは恒例となっている〈S.F.C〉とのコラボレーションは、その遊び心あふれるサイズ感とデザインで話題となり、即完売したものもあったほど。YGMの会場でしか手に入らないレアアイテムとして毎回注目を集めている。湯本さんにとっても、自身が関わるブランド同士をクロスオーバーさせるこの試みは格別な思い入れがあるようで、「異なる文脈を持つもの同士が交わることで新しい化学反応が起きるのが楽しい」という。

これまでも、そしてこれからも。

さて、YGMは今後も進化を続けます。湯本さんは「まさに移動式でいい」という言葉通り、固定観念にとらわれない自由な発想でこれからの展開を考えているようだ。将来の夢を尋ねると、「いつかディズニーランドでYGMができたらとか、東京ドームで開催する日が来たら面白いなって。妄想は尽きないですね」と笑います。もちろんすぐ実現する話ではないけれど、YGMにはそれくらいスケールの大きな野望と遊び心が詰まっている。「そこでしかできない買い物」を体験できる特別な空間を作りたい。湯本さんのその想いがある限り、YGMはこれからも私たちを驚かせ、そして日常をちょっぴり豊かに彩ってくれるはず。次はどんな場所で、どんな出会いが待っているのか。湯本さんの描くYGMの未来図に、期待が高まります。それではみなさん、大阪で会いましょう!

Photo:Shinsaku Yasujima
Edit & Text:Jun Nakada