昨年に続き、モデルや俳優、イラストレーターとして活躍中の田中シェンさんがYES GOOD MARKETへ。2025年はフルジップタイプのパーカを制作中だ。昨年のものづくりで得た手応えを踏まえつつ、FRUIT OF THE LOOMの既存ボディをベースに自分らしさを加える今年。ゼロから作る自由と、制約の中で工夫する楽しさ。その間にある葛藤や想いを聞いた。
田中シェン
たなか・しぇん。鹿児島県出身。英・中・日のトリリンガル。モデル、俳優として活動しつつ、SHENTASTIC creative studioでイラスト/映像制作も行う。J-WAVE「KDDI LINKSC APE」(毎週土曜16時)でパーソナリティを務める。昨年のYGMでは“彼の服を借りる”イメージでユニセックスなアイテム4型を発表。
Instagram:@shen_tanaka
昨年から今年へ、受け継いだこと。

昨年のYGMでシェンさんは、キャップ、ジャケット、ベスト、チノパンというユニセックスなアイテム4型を制作。コンセプトは“クローゼットのシェア”。「付き合いたての彼の服を借りるような世界観をイメージしてデザインしました。当日はイベント自体も楽しかったし、やっぱり着てくれている人や買ってくれた方を見ると作って良かったなって思いました」とシェンさん。会場での反応は熱く、完売のスピードやDMの声、ブースでの交流までを含め、作ったものに間違いはなかったと確信を得たという。
彼女の基準は明快だ。日常に混ざること、そして長く好きでいられること。「これ見よがしに主張しなくても、近づくと気づく“合図”みたいなデザインが好きなんです」。昨年作ったアイテムは、シャカシャカ、ザラザラ、素材同士が擦れる素材の音や触感が特徴的だった。パンツをロールアップすると覗くメッセージもそう。そういった遊び心は、今年の一着にも確かに繋がっている。

一方で、今年は作り方の根本が違う。昨年は素材もパターンもゼロから。今年はFRUIT OF THE LOOMのボディをベースに再編集していく。「前回は自由の代わりに“決めることの海”にいた。今年はルールのある中で“どこに自分の手を入れるか”のゲームみたいな感じ。といっても壁の種類が違うだけで、どっちも楽しいですよ!」。制約がある分、ロゴのサイズ感や位置、“ちょうどいい角度”といった微差の設計が肝になる。
意識したのは“合図”としてのロゴ。

主役はフルジップタイプのパーカ。色はネイビー一色。しかもサイズもLのみという潔さ。ポイントは刺繍だとシェンさんは言う。「フード周りの刺繍は、被ったときにロゴが地面に対して水平に見える角度で入っていること。できれば同色のネイビーで。正面でドーンより、ふと視線が止まるくらいの位置が好きなんです。もちろん、素材の音は今年も意識しています。ジップの開閉音だったり、裏地の肌感だったり。ちょっとした音が一日の気分を上げてくれるから」。




さらに、彼女らしい遊びがもう一つ。小さな円の中に「右」「左」と刺繍するアイデアだ。肘の外側近くに、白系で刺繍を入れる仕様に。「分かる分からないかのギリギリのサイズ感が可愛いくないですか!? そういう意味では、今回は主張を極力抑えてミニマルに仕上げてますね」。
迷いも楽しむ、今年のものづくり。

作り方の違いは、そのままものづくりの考え方に直結する。ゼロから作るときの迷いの壁。既存ボディを活かすときの制約の壁。どちらにも工夫の余地がある。「制約があるから、サイズや位置、角度といった“差”で遊べる。ゼロからの自由は、輪郭まで自分で描ける、そんな感じかな。あとは着る人次第」。

昨年の会場で感じたのは、手渡しの力だった。スタッフが帽子を買い、その場で被ってくれる。ブースに立ち、買いに来てくれた人とサイズを一緒に選んだり、写真を撮ったり。「なんだか自己紹介なしで、乾杯してるみたいな気持ちだった。今年も大阪のど真ん中でそれができたらいいな。期待は特に“何が起きるか”じゃない。皆さんに会えることを期待しています」。そして最後に、少し照れながら短く付け加えた。「みんな買ってね(笑)」。

刺繍の角度はサンプルで数パターンを見て決め、フード刺繍は被った時に水平に見える角度に微調整していく予定だ。YGMは、つくる・着る・出会うが同時に立ち上がる場所。シェンさんのパーカも、きっとその一役を担ってくれるはず。秋の大阪で、あなたの一日に新たなリズムがひとつ増えることを願って。
Photo:Shin Hamada
Edit & Text:Jun Nakada