シンガーソングライター Sincereの日々の成長と見据える先。

interview

今年のYES GOOD MARKETでライブを披露するシンガーのSincereさん。2021年にデビューした彼女はそれ以前から精力的に活動し、〈森、道、市場2017〉や〈りんご音楽祭2017〉のステージに立ったり、ゲスの極み乙女の楽曲を英語でカバーする企画に抜擢されたりと、着実にキャリアを築き上げてきた。そんなSincereさんのデビュー前から現在に至るまでをインタビュー。楽曲制作の裏側や心境の変化について話してもらった。

デビューまでの活動。

―Sincereさんはデビューする前に、〈森、道、市場〉と〈りんご音楽祭〉にご出演されていましたね。

Sincere:インディーズ時代、Seihoさん(DJ/プロデューサー)と作った曲があったので、Seihoさんが出演するフェスで一緒にステージに立たせていただきました。

―ライブはいかがでしたか?

Sincere:お客さんみんな温かかったです。その雰囲気に感化されて、わたしも気分が上がりました。会場が一体になっているのが気持ちよかったです。

―Seihoさんとは5月にリリースしたシングル「water」でも一緒に制作されています。お付き合いは長いんですか?

Sincere:活動し始めた当初からお世話になっているんです。

―それはどういった経緯で?

Sincere:音楽学校が主催する18歳以下のアーティストが出演するジャズのイベントがありまして、それに出演したら音楽関係の方が声を掛けてくださり、Seihoさんをご紹介いただいたんですよ。

―ジャズがお好きだったんですか?

Sincere:好きでしたけど、特化していたわけじゃなく。主催していた音楽学校がジャズに力を入れていたんです。

―いろんな音楽を聴いていたわけですね。

Sincere:そうなんです。イベントをきっかけに、その学校への入学を決めました。そこで初めてバンドを組んだり、セッションに参加したり。いろんな音楽に触れることができました。

―本格的に音楽活動をスタートし、ステージに立った時の感覚を覚えていますか?

Sincere:好きな曲をバンドの生音で歌えるのは嬉しかったです。

―緊張せず?

Sincere:音楽に本腰を入れる前は劇団に所属していたから、人前に立つことは慣れていたんです。だけど、劇団とは違う感覚もありました。

―どういったところが違いました?

Sincere:演劇は静かに観るじゃないですか。でも、音楽のライブはお客さんと出演者に一体感が生まれて、一緒に盛り上がる。

―確かに。ライブはお客さんからのレスポンスがありますね。2021年に「Reminder」でデビューしましたが、音楽に対する姿勢に変化は?

Sincere:わたしの1曲のためにたくさんの人が携わってくれていて、改めてもっとしっかり音楽と向き合わなきゃ、と思いました。

―なにか意識的に変えたことは?

Sincere:歌詞の伝え方を考えました。聴いてくれた人に届かなきゃ意味がないですからね。前までは自分のやりたいようにやっていて、いわば自分のための曲。でも今は、聴いてくれる人のために作っていて、伝える力を外に向けています。当たり前のことですが(笑)。

―デビュー当時に描いた理想像は?

Sincere:何歳になっても歌っていたいと思いました。好きなジャンルが多いので、いろんなことに挑戦したいです。この前、デビューしてから初めてバンドセットでライブをして、すごく楽しかったんですよ。今後は「これぞバンドサウンド!」というような楽曲も作りたいと思っています。

―ジャンルに捉われず活動していきたい、と。

Sincere:もともと、ジャンルのカテゴライズを考えていなくて。さまざまな角度から表現していきたいです。

楽曲制作の裏側。

―さまざまなレコード会社とコラボレーションするレーベル、monogram recordsに所属していますが、いろんなプロデューサーとの共作は刺激が多いのでは?

Sincere:学ぶことがたくさんあります。デビュー当初は、誰かと一緒に制作することに慣れていなかったけど、最近は感覚を掴んできました。

―プロデューサーとのやりとりで大事にしていることはありますか?

Sincere:自分の意見を曲げない。もちろん柔軟な思考を持って相手の意見を聴くことも大切だから念頭に置いていますが、芯に持つべきは自分を信じること。それによっていいものができると思うんです。

―今年3月にリリースした『Just Living』では、韓国のシンガーoceanfromtheblueさんをフィーチャリングに迎えた「Sixteen, Fifteen」が収録されています。海外アーティストとのコラボレーションは初めてですか?

Sincere:はい。歌のメロディーを乗せたトラックをお渡しして、方向性をお伝えしました。海外の方だから、うまくコミュニケーションが取れるか不安だったけど、笑顔が素敵で人柄も良くて、円滑に進行することができました。

―海外の方との制作は、新たな発見があったのではないでしょうか。

Sincere:日本の音楽の良さを保ちつつ、海外に受け入れてもらえるメロディを考えるようになりました。まだまだ模索しているところですが。

―Sincereさんはほとんどの楽曲で歌詞に英語を使っていますし、YouTubeにアップしている楽曲はすべて英訳していますよね。海外での活動も視野に入れていますか?

Sincere:英語で表現するほうが得意なので、いつか海外でも活動してみたいな、という夢はあります。作詞を始めた当初は英語で考えた歌詞をどれだけ日本語にできるか考えていましたが、最近は英語と日本語のバランスが大事だと思っています。

―インディーズ時代の楽曲の歌詞は、英語に比重を置いていた印象です。でも、デビューしてからは英語と日本語を織り交ぜていますよね。それは先ほどおっしゃった、伝えることを意識した結果?

Sincere:そうですね。伝わらないと意味がないので。自分のアイデンティティや立ち位置を踏まえて、わたしだからできることを考えるようになりました。

インスピレーションの源。

―作詞と作曲は分けて制作しているんですか?

Sincere:はい。歌詞に合わせて作曲することもありますが、基本的に作曲が先。トラックが形になったら抽象的に歌ってメロディを乗せるんです。そして歌詞はストックから。日々生きていると、ふと思うことがあるので、それを書き留めていて、メロディに当てはめていくことが多いです。

―どんな時に、歌詞となるピースを思いつくことが多いですか?

Sincere:人間関係がうまくいっていない時(笑)。幸せを感じている場面でもひらめきますけど、心配や悩みを抱えている時の方がいいフレーズが思いつくんです。

―皮肉なもんですね(笑)。逆境に立ち向かう時こそ力になる、といったところかもしれません。制作に行き詰まったら、どう息抜きしていますか?

Sincere:そんな時はお風呂です。銭湯や温泉に行って、ゆっくりしています。お風呂に入っていると、スマホを触らないじゃないですか。それが良くて。余計なことを考えないんです。

―スマホは手軽に調べたり情報を吸収したりできますが、ないならないで自分なりの角度で考えられますよね。

Sincere:日常でスマホを触らないって思っても、ついつい触っちゃう。だから、絶対に触れないお風呂の環境がいいんです。

―お風呂に入っているとアイデアが湧いてくる?

Sincere:アイデアが湧いてくるというより、悩んでいたことが整理されて楽曲に繋がることが多いです。

―アイデアが湧くのはどんな時ですか?

Sincere:人と話している時が多いかな? 他からの刺激があると、ぼんやりと浮かんでくるんです。急に「なるほど!」って納得したり繋がったり。自分の中に感情とロジックがあって、感情をロジカルに説明できると腑に落ちます。分かっているつもりでも感情が追いつかないこともあって、モヤモヤしちゃうんです。でも、誰かと話していると、自分では気づかなかった感情の機微を見出せて、ロジカルに説明できるようになります。

―人と接することが楽曲制作に大きな影響を与えているんですね。

Sincere:最近は、ですね。ずっとそうだったかと言われたら違います。

―前は違っていたんですか?

Sincere:少しさかのぼると、影響を受けていたのは記憶でした。

―例えば、どんな記憶から?

Sincere:去年リリースしたEP『Time』では、過去を振り返ることで生まれた楽曲が多かったです。あの時こうじゃなかったら、今はこうなっていたかもしれないって考えていました。そのおかげで、過去の自分を乗り越えられました。それを経て、今はこの瞬間を生きているので、人との会話が制作のヒントになっているんだと思います。

―リリースするごとに成長を実感しているんですね。次にリリースする楽曲を制作しているそうですね。

Sincere:絶賛製作中です!内から湧き上がるポジティブ感を表現した曲を作りたくて、何か気づきのあるような歌詞と軽快なサウンドで、みんなと一緒にライブでも盛り上がれる曲にできたらなぁと思っています!

―YES GOOD MARKETのライブも楽しみにしています!

Sincere:スケートパークでライブができるなんて新鮮。わたしも楽しみにしています。一緒に踊れる曲があるし、未発表の曲を披露するかもしれません。とにかく難しいことを考えず、フィーリングでライブを楽しんでもらえたら嬉しいです。

PHOTO/MASASHI URA TEXT/SHOGO KOMATSU