YES GOOD MARKETでライブを披露してくれるOvall。3人それぞれがプロデューサーやトラックメイカーとしても活動し、アーティストへの楽曲提供やアレンジに参加したり、映画やドラマの劇伴を制作したりなど、音楽シーンを縦横無尽に駆け巡る。そんな彼らの結成から楽曲制作までの裏側にフォーカス。各々に秘めた個性を集結させて、ひとつのグルーヴに昇華するステージは必見だ。
「この2人と一緒にバンドを組まなきゃ」って使命感が湧いてきた。
―3人はどのように出会ったのですか?
Shingo Suzuki:3人が出会ったのは、池袋にあるマイルス・カフェというジャズのライブハウス。遊びに来ていた関口とmabanuaに僕から声を掛け、一緒にジャムセッションを演ったのがきっかけです。
関口シンゴ:2006年とか2007年とか、それくらい前だよね。
Shingo Suzuki:そうそう。結構前ですね。
関口シンゴ:当時はまだ音楽のお仕事は多くはなく、今以上に音楽に飢えていた時期でした。
Shingo Suzuki:だからこそセッションに参加していたんですよ。みんな仕事の繋がりやバンドメンバーを探していて。Ovallはもともと、僕がフランスで立ち上げたソロプロジェクトが母体になっていて、日本でも活動するためにメンバーを探していました。
―それで関口さんとmabanuaさんに声を掛けた、と。他にもミュージシャンがいるなか、2人を誘った決め手は?
Shingo Suzuki:演奏も雰囲気も、すべてを含めて一緒に演りたいと思えたんですよ。僕がジャムセッションのホストを務めていましたが、いろんなミュージシャンが参加するなか、2人は群を抜いてカッコよかった。ただ上手なだけじゃなく、自分の音を持っている個性も感じました。「この2人と一緒にバンドを組まなきゃ」って使命感のようなものが湧いてきて、なかば強引に誘ったんですよ(笑)。
―上手な演奏に加えて、個性も大事なんですね。
関口シンゴ:ジャムセッションは自分を表現する場でもあるので、全部アリなんです。そのステージで自分を魅せてやるって意気込みの人がいれば、誰かと一緒に演奏することに喜びを感じる人もいて。ジャムセッションはオープンな場所。正解はなくて自由なぶん、いろんな人のキャラクターが分かるんです。
mabanua:2人とグルーヴの感覚が共通していると思いました。当然きちんとフレーズを弾けているし、好きなアーティストも同じだけど、何かが違う。譜面には書けないニュアンスの違いを感じて。これなら一緒にバンドを組んでも大丈夫と思いました。
―共通点と相違点があったんですね。
mabanua:話をしていても、噛み合わない人っているじゃないですか。会話の間だったり、テンポだったり。そこが同じだったのは大きいです。
―Ovallを結成して、バンドの方向性を話し合いましたか?
Shingo Suzuki:ジャンルは決めていませんでしたね。
関口シンゴ:うん、うん。
Shingo Suzuki:今までにない、新しい音楽をやりたいという気持ちがありました。
Ovallの楽曲が完成するまで。
―楽曲制作はどのようにやられていますか? セッションしながら作り上げているのか、それぞれが持ち寄っているのか。
Shingo Suzuki:結成当初はみんなで集まって、ゼロから作っていました。でも最近は、各々が8割くらいまで仕上げたデモを持ってきて、そこに音を入れて完成させていくことが多いです。
―フィーチャリングのアーティストは最初に決めているんですか?
Shingo Suzuki:デモを作る段階で、歌ものにしたいかを決めています。
関口シンゴ:でも、誰に参加してもらうか、具体的に決めていないことが多いです。
―インスト曲のタイトルの付け方も気になります。
Shingo Suzuki:個人的には、あまりタイトルに重きを置いていないんです。感じ方は聴く人の自由だし、聴く時間帯もそれぞれ違いますので。インスト曲にタイトルをつける際は、その時に自分の頭のなかにある言葉や経験からキーワードを拾っています。
mabanua:インストのタイトルに関しては適当かな(笑)。1とか2とか、番号でもいいくらい。タイトルの言葉の先入観に捉われず、音を聴いてもらうのがベスト。まあ、タイトルで明確に世界観を提示するのも、表現のひとつにありますが。やっぱりミュージシャンである以上は、音を聴いてどう感じてもらうかが大事だと思います。タイトルもそうだし、レコーディング方法や使った機材、どこで制作したかも関係なくて、結局のところ音がカッコよければいいんです。
関口シンゴ:特定する言葉は選ばないかも。例えば、“トウキョウ”とタイトルに入れたら都会的なイメージが湧いてくるので、具体的ではなく、抽象的な言葉をチョイスしています。
Shingo Suzuki:歌詞が入っていれば、もちろん話は別ですが。
―Ovallと各々の楽曲があって、ドラマや映画の劇伴やCM曲なども制作されています。それぞれ制作のアイデアの思考は切り替えていますか?
関口シンゴ:Ovallに関しては、3人で演奏するのが前提なので、それを踏まえて制作しています。劇伴やCM曲などは、基本的にプロジェクトにフォーカスして作っていますが、制作中にOvallの楽曲にしてもいいかも、と思うこともあります。その逆は、ないかもしれません。
―Ovallの楽曲は、Ovallのため。ジャンルレスに活動しているからこそ、他で制作したいろんな要素をOvallに取り入れることができるんですね。
関口シンゴ:いろんなアイデアが、知らぬ間にOvallに反映されているんだと思います。
フェスで演奏する魅力とは。
―ライブハウスと野外フェスでは、同じ曲を演奏するとしても、どのように違いますか?
mabanua:野外フェスは当日リハがないので緊張感があります。お客さんもいろんなアーティストを観ようとワクワクしているから、会場は普段のライブと違う雰囲気。
関口シンゴ:たくさんのアーティストが出演しているから、僕たちを目的に来てくれるライブやワンマンとは違いますよね。僕たちを初めて観る人もたくさんいるし、初対面のアーティストもいて。そのフェスで浴びる空気感や雰囲気が好きなんです。新しい出会いの場でもあるから、セットリストも慎重に考えます。
―セットリストはどのように決めていますか?
Shingo Suzuki:ざっくり決めながら、前日までのリハーサルで調整しています。僕らは何度も何度も演奏している曲だとしても、来場した人たちは初めて聴くかもしれない。だから野外フェスでは、昔の曲を演奏してみることもあるんです。それを含めて野外フェスの楽しさだと思います。
―野外で演奏すると、音の響きも違いますよね。
関口シンゴ:開放的な空間で音を出せるのは気持ちいいです。大音量で演奏できる大きいステージもいいし、小さめのステージも楽しい。出演者によって、野外フェスのタイプが異なるじゃないですか。普段からOvallと近い音楽を聴いている人が集まるフェスがあれば、Ovallとは全然違うテイストの音楽を聴いている人が集まるフェスもある。僕らの音楽と遠いテイストの野外フェスほど、緊張感は高まります。野外フェスで初めてOvallを聴いたけど、気持ちよかったと感想をもらうこともあって、新しい出会いもあるから野外フェスは好きなんです。
mabanua:この前、10数年ぶりに自分でチケットを買って、仕事は関係なく野外フェスに遊びに行ってきたんですよ。
―いかがでしたか?
mabanua:すごく楽しくて、お客さんの気持ちを改めて体感できました。演者は会場に着いたら楽屋に入って、演奏して、そのまま帰ることが多いんですけど、お客さんの場合、装飾が施されたエントランスをくぐって、いくつものステージを回って、ずらっと並んだ屋台やアクティビティも楽しんで、テーマパークに来た感覚。演者側とは全然違う楽しみ方があると感じました。それを意識する必要があると思ったくらい、野外フェスに対していろんな見方ができました。
―今年のYES GOOD MARKETで演奏していただくステージは、スケートパークのランプの上です。
Shingo Suzuki:新鮮ですね。
mabanua:この感じなら、ビートが強めのセットリストも良さそう。
関口シンゴ:スケートパークに初めて入るお客さんも多いんじゃないですか? 僕らも普段と違う環境で演奏できるのは楽しみです。
PHOTO/SATOSHI OMURA TEXT/SHOGO KOMATSU