1848年、アメリカの労働者の手を守るために生まれた一双のグローブ。そのDNAを、2026年の街へ。新ライン「GRIP SWANY 1848」のディレクションを担うのは、吉祥寺のthe Apartmentを率いる大橋高歩だ。手がかりにしたのは、スワニー・イエローの革と架空のアーカイブ。「もし、創業時から服もつくっていたなら」という物語から、ワーク、アウトドア、ストリートをひとつのレーベルへ編み直した。9月18日のデビューを前に、一本の別注ショーツから始まったブランドとの関係、着るほど自分のものになる服、そしてアーバンリサーチ京都店をきっかけに決まったYES GOOD MARKETへの参加について聞いた。
大橋高歩
おおはし・たかゆき。1979年、東京都板橋区生まれ。2009年、東京・吉祥寺にセレクトショップ「the Apartment」をオープン。中学時代からヒップホップとアメリカ東海岸のスタイルに傾倒し、USA製のヘヴィデューティウエアやヴィンテージアウトドアを独自の視点で提案してきた。オリジナルブランド「STABRIDGE」を手がけるほか、外部ブランドのデザイン、ディレクションにも携わる。「GRIP SWANY 1848」ディレクター。
@taka_toucans
きっかけは一本のバギーショーツから。

ーGRIP SWANYとの最初の接点は、2018年頃だったそうですね。
うちのお客さまでもあったスタイリストの方から紹介され、STABRIDGEとのコラボレーションを相談されたのが最初です。当時のショーツは鮮やかな色で丈が短く、フェスやキャンプの印象が強かった。であれば、シルエットをバギーにして丈を伸ばし、色を落ち着かせれば、僕らが提案する東海岸のストリートスタイルにも届くと思ったんです。その別注が受け入れられ、コラボレーションが続いていきました。

ーそこから、新ラインのディレクションに繋がったと。
ブランド側から、既存ラインより素材や生産背景を深く掘り下げた「ピナクルライン」をつくりたいと相談を受けました。これまでのキャンプウエアとは別に、ファッションの側へきちんと届くものをつくる。その役割を担うレーベルです。別注を通して見つけたGRIP SWANYの可能性を、今度はひとつのラインとして広げることになりました。
ーあらためて、GRIP SWANYはどんなブランドなのでしょう。
アメリカで生まれた老舗のグローブブランドです。日本ではアウトドアグローブとして広がり、その後、キャンプブームを通じてショーツやウエアも知られるようになった。グローブを原点にしながら、日本でキャンプウエアへ展開を広げてきたブランドだと思います。
存在しないアーカイブを、つくる。

ー「1848」という数字から、どのように服の世界を作って行ったのでしょうか?
GRIP SWANYにはグローブの歴史がありますが、長年つくり続けてきた洋服のアーカイブがあるわけではありません。例えば、他のアメリカの老舗アウトドアブランドのように、1970年代の実物をソースに復刻する方法は使えない。そこで、「もし1848年の創業期から洋服もつくっていたら」という架空のストーリーを設定しました。アメリカンカジュアルやアウトドアに結びつく服を長くつくり、その1990年代頃のラインを現代に復刻する。架空のアーカイブから、世界観を組み立てる感覚ですね。

ーなぜ、いまヘヴィデューティーな服を?
日本でのGRIP SWANYには、やはりキャンプのイメージがあります。だからアメリカのワークだけに寄せず、釣りやハンティングをはじめとしたアウトドア全体を見たかった。一方で、テクニカルなシェルや快適なスニーカーが広がった反動もあって、革靴、デニム、レザージャケットのような無骨なものへ気分が戻っているとも感じていました。見た目やディテールは無骨でも、中綿や素材は現代の技術で軽く、着やすくできる。昔の服をなぞるだけでなく、今つくる意味はそこにあります。


ーそのDNAのひとつがスワニー・イエローですね。
ファーストシーズンが秋冬ということもあり、グローブに使われる黄色い革を、どう服へ落とし込むかを起点にしました。熱いものを持てるほど厚く、衣服として扱いやすい革ではないので、ハンティングジャケットでは襟に使い、洗濯時には外せる仕様にしたり、バーシティジャケットの袖に使ったり。何にでも付けるのではなく、核になる服にだけ、グローブのDNAが見えるようにしています。


ーシルエットは、日本人に合わせたものに?
いえ、アメリカの服は、少しバランスが悪いくらいのほうが雰囲気が出ると思っています。1970年代から90年代のジャケットは、袖ぐりが大きく下がっていたり、独特な形をしているものが多いです。それを安易に日本人向けに直すことはしませんでした。今は若い人もヴィンテージの古着に慣れているので、その不格好さごと着てもらえるはずです。
なおかつ、きれいなまま保管する服ではなく、何度も着て、汚れや経年変化が重なった先で格好よくなるものにしたい。レザーもそうです。簡単に消費されず、着る人の服になっていくことは強く意識しましたね。

ー実際、ものづくりの現場では、言葉だけに頼らないそうですね。
僕はゼロから絵を描くというより、古着や実物のベースをどう更新するか、というつくり方をします。例えば、今回、リアルなペンキ跡を入れたダブルニーのパンツがあります。実際に作業する人の服なら、汚れる位置に理由がある。なので、まず無地のサンプルをもらい、自分で合羽を着てペンキを飛ばし、「この位置と量でお願いします」と見本をつくって送ることもありました。
京都店から、岡崎公園へ。

ー今回のYGM参加は、アーバンリサーチ京都店とのつながりから生まれたそうですね。
アーバンリサーチ京都店でGRIP SWANY 1848を取り扱っていただくことになり、その流れで「YGMにも参加しませんか」と声をかけていただきました。同じ京都という場所で、より多くの方にブランドのことを知っていただく、良いきっかけになればという思いです。
ーYGMには、どんな印象をお持ちですか?
名前は以前から聞いていましたが、参加するのは初めてです。インディペンデントなところからオーガニックに広がって、独立したマーケットとして、とても理想的な育ち方をしてきたイベントという印象ですね。

ー大橋さんが遠方のイベントに関わるのは、珍しいそうですね。
吉祥寺は東京のなかでもローカルな街です。店を長く続けることを大切にしているので、イベントも、井の頭公園周辺や近所の材木屋のバザーなど、地元から声をかけてもらった場が中心です。遠方へ行けば店を休み、スタッフ全員で移動しなければならないので。今回はthe Apartment名義ではありませんが、僕自身がこうして遠方の大きなイベントに関わるのは、初めてかもしれません。

ー最後にYGMでの構想を教えてください。
まだ、どのアイテムをどこまでディスプレイして、販売するかまで決まっていないのですが、よりたくさんの方とコミュニケーションをとって、GRIP SWANY 1848の魅力をお伝えできればと思っています。デビューシーズンなので、まずはブランドのイメージを確立させること。自分を前面に出すのではなく、しっかりプロダクトで勝負したいですね。
Photo:Shinsaku Yasujima
Edit & Text:Jun Nakada