フレンチの技術を、もっと構えずに楽しめる料理へ。渋谷・神山町の「Chillmatic – Hamburger & Bistro」で塩田大治が形にしているのは、熟成肉のパティと自家製パストラミを重ねたハンバーガーだけではない。酒、音楽、ファッション。それぞれの“好き”がゆるやかに交わる、居心地のいい場所だ。二度の移転を経て自分たちの店を育ててきた塩田が、この秋、初めてYES GOOD MARKET(以下、YGM)へ。料理人としての原点、Chillmaticという店のつくり方、そして店の外で届けたい味について聞いた。
塩田大治
しおだ・だいじ。1987年、東京都台東区生まれ。「Chillmatic – Hamburger & Bistro」のオーナーシェフ。浅草のフレンチレストラン「ラ・シェーブル」での修業を経て、2018年に「The Burn」へ。その後「THE GOOD VIBES」などで料理長兼責任者を務め、2022年にChillmaticを開業。二度の移転を経て、現在は渋谷・神山町に店を構える。
https://www.instagram.com/chillmatic_tokyo

「ひき肉には、ロマンがある」
ーずっと心に残っている、修業時代の言葉だそうですね。
最初に働いていたお店のシェフが、ふと「ひき肉にはロマンがある」と言ったんです。塊のままでは硬い肉も、挽けば食べやすくできる。脂の割合を変えたり、別の肉と合わせたり、ハーブやスパイスを混ぜたり。手を入れるほど、いろいろな表情をつくれる。その言葉が、ずっと心に残っています。
フランスには、ハムやソーセージ、パテをつくるシャルキュティエという職人がいて、僕も憧れていました。そういう意味では、パストラミを仕込むことも、ハンバーガーを仕立てることも、自分のなかでは地続きなんです。

ー料理人としての出発点は?
父がフレンチの料理人だったので、高校卒業後、その世界に入りました。浅草の「ラ・シェーブル」などで約10年。その後は、新潟・石打で父が営む「オーベルジュ アンドラ・モンターニュ」でも働きました。
独立したい気持ちはあったけれど、知っているのはクラシックなフレンチが中心。もう少し違うものを吸収したくて、米澤文雄さんが開く「The Burn」の立ち上げに参加させていただくことに。その後、「THE GOOD VIBES」で熟成肉やパストラミ、サンドイッチに触れて、アメリカ料理は、大味でジャンクなものだけじゃない。きちんとつくれば、こんなにおいしいんだと知りました。

ーそれが、好きだった音楽やファッションともつながったと。
そうですね。フレンチで覚えた技術と、自分が昔から好きだったアメリカのカルチャー。その二つを、無理なく一皿にできるのが、僕にとってはハンバーガーだったんだと思います。
Nasの一枚から、店の名前へ。

ー店名は、Nasの『Illmatic』から?
友人のお父さんがブラックミュージック好きで、家へ遊びに行く度に、いろいろ教えてくれたんです。思春期にはヒップホップを聴くようになり、そこから自分でも掘っていきました。Nasの『Illmatic』も、その流れで自然に通った一枚ですね。

「Chillmatic」は、「chill」と「illmatic」を掛け合わせた造語。「illmatic」は、僕の感覚では「最高にヤバい」というような最上級の言葉です。そこに、居心地や雰囲気のよさを表す「chill」を合わせました。料理も、酒も、空間も、接客も。全部ひっくるめて、最高に居心地のいい場所にしたかったんです。
「Hamburger & Bistro」と付けているのは、僕がフレンチ出身で、夜にはアラカルトのビストロ料理も出しているからです。



ーとはいえ、店はブラックミュージック一色ではないですよね。
基本は、料理を提供する場所ですから。スタッフには、レゲエが好きな人もいれば、スケーターも、DJをする人もいる。近いようで少しずつ違う「好き」が、自然に混ざっているというか。何かに決めすぎない、そのくらいがChillmaticらしいと思っています。




ー確かに、そのバランスは看板メニューであるバーガーにも感じます。
「チルマティック バーガー」は、熟成肉を使用したパティと自家製パストラミが主役です。野菜を挟まないのは、肉の香りや燻製香を、水分や温度でぼかしたくないから。焼いたパティと、マリネ、低温調理、燻製を施したパストラミ。同じ牛肉でも違う食感と香りを、まっすぐ味わってもらいたい。
料理は、ごちゃごちゃさせず、何を食べてほしいのかをはっきりさせる。でも、一口目に「おっ」と思う小さな驚きは残す。フレンチの技法をそのまま見せるのではなく、構えずに食べられるものへ落とし込む。それが、Chillmaticの料理です。

ー店の外のつくり手とのコラボレーションも多いですね。
茅ヶ崎の「Barbaric WORKS」には、クラックドペッパーを利かせたペールエールをつくってもらいました。「CAMOSI BREWING」とは、愛媛・宇和島の「Tangerine」を交え、甘夏を使ったミカンセゾン「Tchin-Tchin」を。

どちらも料理に合うことはもちろん、普段からつながりのある人たちと、同じカルチャーの延長で一緒につくれることを大切にしています。
いつもの味を、京都へ。

ー大きなマーケットへの出店経験はありますか?
知り合いの店の周年やポップアップはありましたが、大きな催しはそれほど多くありません。2026年4月に、岡山の「杜の街グレース」で開かれた「THE MARKET…」へ2日間出店しました。
店とは違って、仕込みだけでなく、現地での調理、冷蔵設備、運搬、器具まで考えなければいけない。最近は声をかけていただく機会も増えたので、少しずつ挑戦したいと思っています。
ーYES GOOD MARKETからも、何年も誘われていたそうですね。
よくご家族で店に来てくれるYGMのヒロシさんが、静岡で開催していた頃から毎年声をかけてくれていました。でも、人員や設備の都合で、断り続けていたんです。それでも毎年誘ってもらったので、今回は一度やってみようと決めました。

ー京都には、何を持っていきますか。
まずは「チルマティック バーガー」です。初めて食べる方に店を知ってもらうなら、やはりこの一品なので。加えて、チーズバーガーや自家製マスタードも検討しています。
難しいのは、価格を上げすぎず、屋外でも店と同じ品質に仕上げること。何食用意するかも読まなければいけません。イベント用に違う味をつくるのではなく、普段のChillmaticを、そのまま持っていきたいと思っています。

ーChillmaticにとって、初めての京都ですね。
実は岡崎公園にも、まだ行ったことがないんです。Chillmaticを知っていて食べに来てくださる方にも、買い物の途中で初めて知ってくれる方にも、店の味をきちんと届けたいですね。
Photo:Shinsaku Yasujima
Edit & Text:Jun Nakada