二条城の近く、商店街を抜けた先。ESPRESSOと太く書かれた看板が目印の、こじんまりとした建物がある。京都の小さなコーヒースタンド「heath」だ。10年以上コーヒーの世界で生きてきた店主のエリーさんが営むそこは、コーヒーはもちろん、揚げたてのドーナツを求めて多くの人が押し寄せる。ダンスに明け暮れた10代から、アメリカ発のコーヒーブランドでの下積み、そして独立…。YGM初出店となるコーヒースタンドの足跡と、京都の路地にしっかりと根を下ろした今を見る。
エリー
1990年生まれ、北海道出身。大阪の専門学校でダンスを学び、20歳からダンスインストラクターとアパレル店員を兼務。その後「Saturdays NYC」の大阪店の立ち上げをきっかけにコーヒーの世界へ入り、「Stumptown Coffee Roasters」の京都店でバリスタを務めたのち、2023年にコーヒースタンド「heath」をオープン。
https://www.instagram.com/heath_jp/
軽い気持ちではじまった、10年以上におよぶコーヒーな人生。

ーまずは、コーヒーの世界に入ったきっかけから聞かせてください。
エリー:小学生の頃からずっとダンスをしていたんですけど、ダンスの専門学校に通うために大阪に出てきたんです。そこからダンスインストラクターの仕事をしながら、アパレルのバイトもしていたんですけど、23歳のとき「Saturdays NYC」の大阪店ができるタイミングで、応募したらまさかの受かっちゃって。
ーそれまでは、コーヒーへの興味はなかったんでしょうか?
エリー:そうですね。最初は「ちょっとコーヒーやってみようかな」ぐらいの気持ちだったんです。でも、思いのほかハマってしまって、そのまま丸5年、そこで務めました。
ーそこから、別のコーヒーショップに移られたんですよね。
エリー:「Saturdays NYC」でコーヒーカルチャーに触れて、アメリカのコーヒー事情を知っていくなかで、ポートランドにある「Stumptown Coffee Roasters」に興味を持つようになって。ちょうどそのタイミングで京都店がオープンすると知って、転職したんです。

ーそこから、独立を考えたのはなぜですか?
エリー:「Stumptown Coffee Roasters」でも立ち上げから関わらせてもらったんですけど、実際に入ってみると、私のバリスタ歴が長かったこともあり、結局は自分が現場を回すだけになってしまって。会社の規模も大きくなり、やりたいことができなくなっていくなかで「自分でやった方が自由にできて、楽しいのかも」と思ったのが、独立したきっかけです。

ー「heath」がある場所は京都駅からは遠く、繁華街でもない。この場所を選んだ理由はありますか?
エリー:正直、エリアへのこだわりは全然なかったんです。ただ、街中すぎるのは嫌で、いわゆるローカルなコーヒーショップという形がやりたかった。あと、大きいカフェじゃなくて、コーヒースタンドであることが自分の中ではポイントで。10坪くらいの小箱の物件を探していたら、ちょうどこの物件が出てきて、外見に完全に惚れてしまったんです(笑)。元々美容室だった建物で、外装はほとんど手を加えていません。横にはパーマ屋さんだった頃の看板もそのまま残っています。
立ち飲み屋みたいな距離感の、コーヒースタンド。

ーアメリカのコーヒーショップといえば、店員さんはフランクで、親しみやすいイメージもあります。店づくりをするなかで、そのあたりも意識されたんでしょうか?
エリー:私もずっとアメリカ発のコーヒーショップで働いていたので、そのカルチャーは自分のなかにあると思います。なので、この店も立ち飲み屋じゃないですけど、いろんな人がふらっと集まれる場所にしたくて。もちろん、静かに過ごしたい人のためにベンチも置いているんですけど、そのグラデーションは自然にできている感じがします。


ー「heath」といえばコーヒーもそうですが、ドーナツも人気ですよね。作り方のこだわりを教えてください。
エリー:うちのドーナツは、いわゆるパン作りと同じ工程で、一次発酵、二次発酵としっかり時間をかけて作っています。揚げるときも低音で、ゆっくりと火を入れていくことでフワフワの食感になるんです。

ーこのエアリーな食感は「heath」ならではですよね。
エリー:パサパサした食感が私自身苦手で、かといってもちもちでもなくて、本当のフワフワを目指しました。ただ、ドーナツ作りは完全に独学。パン屋さんやお菓子屋さんで働いた経験もないので、試作を重ねてレシピを固めていきました。
ー一度に作れる数にも限りがあるそうで。
エリー:そう、マシンの関係で20個が限界なんです。その分、回数を分けて、揚げたてを召し上がっていただけるように、時間を告知しているんです。それを見て来てくださる方は、結構多いですね。


ードーナツは普通、陳列されているものを取って提供することがほとんどですよね。
エリー:やっぱり、揚げたてのおいしさは格別ですから。そこはたぶん、お客さんたちに喜んでもらえているのかなと思います。
ーそもそも、ドーナツを提供しようと思ったのは、なぜだったんですか?
エリー:前職のときに、アメリカンベイクというものがあることを知って。パティシエが作るような、繊細でグラムまでしっかり計るお菓子とは違って、割と大雑把で素朴なお菓子。形も不格好だったり、全部が一緒じゃなくていいところも含めて、好きだったんです。そして独立が決まったときに、アメリカと言えばドーナツかな、くらいの結構安直な考えから始めたんですけど、それがいまに続いている感じです。
チェーン店より、ローカルが生き残る街で。

ー京都といえば、他の街とはひと味違う土地柄だと感じます。土地がお店に与えている影響などは感じますか?
エリー:それはもう、めちゃくちゃ感じます。東京や大阪と比べても、よりローカル色が強い街だなって。もちろんみなさんがよく耳にするチェーン店もありますが、その土地に根差したインディペンデントなお店の方が好まれる傾向にあると思います。
ーその理由は、何だと考えますか?
エリー:人との繋がりをすごく大事にする街だからなんじゃないでしょうか。エリアごとのコミュニティがちゃんとあるし、飲食店同士もお互いの店を行き来したりする関係性もあります。やっぱり横のつながりが強いですね。


ーお店をオープンして3年目を迎えるいま、地域に根付いてきた感覚はありますか?
エリー:だいぶ感じられるようになってきました。もちろんSNSやマップで見つけて来てくれる人たちもいるんですけど、本当に近所のおじちゃんやおばちゃんも来てくれますし、犬の散歩中にフラっと立ち寄ってくれる人がいたり。まだまだこれからなんですけど、ちょっとはローカルの仲間入りができたのかなって。
行きつけの飲食店から繋がった、YGMへの道。

ーYGMという存在は、以前からご存知だったんでしょうか?
エリー:知ってはいたんですけど、行ったことはなくて。一昨年は京都で開催されていたと思うんですけど、その日はお店が開いていて、すごく暑い日だったこともありYGMから避難してきたお客さんがたくさんいましたね(笑)。
ー外から見ていて、YGMにはどんな印象をお持ちでしたか?
エリー:物販が中心のフェスで、あれだけ大規模なものって今までなかったですよね? それと、似たようなイベントはたくさんあるなかで、写真で見る限り、YGMの会場の作り込みは、飛び抜けて素敵だなと思っていました。
ー今回、YGMに出店することになった経緯も教えてください。
エリー:アーバンリサーチの村手さんがきっかけです。共通の知り合いや仲間も多く、いつ頃からか、行きつけの店でよく顔を合わせるようになって、今回お誘いいただいたという流れです。


ー当日はどんなものを提供する予定ですか?
エリー:コーヒーとドーナツを予定しています。できることなら会場で揚げたてを提供したいんですけど、オペレーションの関係で、もしかするとお店で揚げて、1個ずつ包装して販売するかもしれません。ドーナツのフレーバーは、定番のシュガーとグレーズドの2種類に加えて、特別なフレーバーも検討中なので、楽しみにしてもらえるとうれしいです。

ー最後に、YGMに参加するにあたって、楽しみにしていることがあれば教えてください。
エリー:普段お店に来てくれるお客さんとは違う客層に出会えるのが、毎回イベントに出る度に楽しいんですよね。今回はそれに加えて、知り合いのお店もいくつか出店するので、営業の合間にちょっと覗きに行けたらいいなと思っています。会場の装飾を生で見られるのも、本当に楽しみ!
Photo:Shinsaku Yasujima
Text:Keisuke Kimura
Edit:Jun Nakada